適用拡大2つの目的とは

適用拡大の目的は2つある。1つは多くの雇用者が厚生年金に加入することで将来の給付水準が向上することだ。厚生労働省は19年8月に公的年金の財政検証結果を公表したが、現役世代の収入に対する年金額の割合(所得代替率)は現在61.7%であるが、30年後には経済成長と労働参加が一定程度進むケースでも50.8%に低下すると推計している。これが企業規模を50人超に拡大すれば所得代替率は0.3ポイント、20人超は0.4ポイント、撤廃は0.5%ポイント増えると試算している。

もう一つは厚生年金に加入することで働き手の受け取る年金額が増えることだ。厚生年金に加入していないパートは将来国民年金(第一号被保険者)しか受け取れない。第3号被保険者の主婦パートも国民年金と同じ額の基礎年金しか受け取れないが、厚生年金に加入すれば老後の年金が増えるメリットもある。

狙いは第3号被保険者を減らすこと

しかし、もう一つの狙いがある。それは年金保険料負担を免れている会社員と公務員の妻である第3号被保険者を極力減らしていこうというものだ。

第3号被保険者制度は1985年の年金制度改正で導入された。2018年度の第3号被保険者の数は847万人だ。それ以前は会社員の妻も任意で年金保険料を払って国民年金に加入していた。当時は約7割の主婦が国民年金に加入していたが、残りの3割は加入しておらず、将来、無年金状態になることが危惧された。本来なら今でもそうであるように強制加入させるべきだが、当時の政府は約7割の国民年金加入者も含めて全員の保険料負担を免除する第3号被保険者制度を導入したのである。当時は今と違って年金財政にもゆとりがあった。政府としては、外で働く夫を支える妻の“内助の功”に報いたいという思いもあった。

だが、制度が導入されたのはくしくも男女雇用機会均等法成立の時期と重なる。女性が働きやすくなるような制度を整備する一方で、女性を家に閉じこめておくような年金制度を設けるという矛盾を当初から内包していた。

その矛盾が時代の変化とともにあらわになっていく。夫婦ともに正社員という共働き世帯が増加し、専業主婦世帯が減少していく。加えて、未婚者など単身者やシングルマザーも増加していく。一方、専業主婦でありながら働きに出る主婦パートも増加していくが、第3号被保険者の適用範囲内である年収130万円未満に抑えようとする。いわゆる「就労調整」が顕在化していくようになると、共働き世帯や単身者から不公平だとの批判が沸き起こるようになった。