入社2年目の“社内失業”。目の前が真っ暗に

「それまでモチベーション高く頑張ってきたものが、一瞬にして崩れ去ったんです。当然のことですが、極秘情報ですから、知らされたのは社外に発表するその日だったんです。それもショックで……。IR担当なのに、なんで教えてくれなかったんだろう? あなたは必要ない、と通告されたように感じました。また、会社のすべてを把握する部署にいながら、事前に気づくことができなかった自分も恥ずかしかった。みんなにどう思われているだろうと、体面も気にしていました」

IRの仕事を天職とまで感じていただけに、ほかの部署で働く自分は想像できなかった。松田さんは、「完全に社内失業した」と落胆。このときの荒れっぷりはなかなかすさまじかったようで、上司や役員にも食ってかかったそう。

「『ファンドに株式渡すなんて、絶対に間違ってます!』『ちゃんと考えてます? どういうことか分かってるんですか?』などと、謎の上から目線でひどい発言をしていました。なりふり構わず会社でも泣きましたし、とにかく思いが強すぎて、吐き出さずにはいられなかったんですね」

転職も考えたとき、上司が背中で教えてくれたこと

残務処理が終わったあと、松田さんはウエディングドレスのPR業務に携わることに。

「実は、転職も考えて、会社を探したりもしていました。IRで生きていきたいと思い始めていましたし、他社に輝ける場所があるならそこに行こうと。ただ、なかなかしっくりくる会社に出会えなかった。その根底には、まだノバレーゼのメンバーと仕事をしたいという気持ちがあったのだと思います。とりわけ当時の上司は、心底尊敬できる人。私が荒れ狂っていたときにも、一言も否定することなく、怒ることなく、全部を「うん、わかるよ、わかるよ」と聞いてくれた。最終的には、この人といっしょに働けるんだったら、なんでもいいか、と思ったんです」

上司もIR一筋でキャリアを築いてきた人。しかし、彼女は「まるで最初からPR畑の人だったみたい」にすばらしい仕事ぶりでチームを牽引した。

「以前と変わらず、PRでもキラキラと輝いている上司を見たときに、業務に固執していたのは間違っていた、と気づかされました。どこでも輝くことはできる。業務内容より、どういう人間になりたいかで仕事をしたほうがいいんだ、と完全に切り替えることができました」

とはいえ、PRの仕事は、松田さんのこれまでの経験とはまるで正反対の世界。数字や論理ではなく、センスが問われるPR業務に四苦八苦することになる。

「勉強してできることのほうが得意なタイプなんです。正解があるほうがわかりやすい。白黒はっきりして、論理的に説明できることが好き。それが、白でも黒でもすてきなのよ、という世界にきちゃったものだから、もう大混乱です。そもそもトレンドを追いかけるタイプではなく、経済誌や新聞が大好きなおやじ女子。自分の感覚なんて信じられないから、とにかく知識を増やさなければと必死でファッション誌を読み漁りました」