チャンスは日常の中に落ちている
2011年は、激動の年でしたが、時代の変化を感じるある出来事がありました。Apple創業者のスティーブ・ジョブズが亡くなったのです。
私は、自分で作った会社から追い出されたことがあるジョブズの生き方に興味があり、スタンフォード大学の卒業式でジョブズが話した、有名なスピーチ動画をYouTubeで何度も見ていました。
その動画を見て、私はチャンスについて大きな誤解をしていたことに気がついたのです。
ジョブズは、スピーチの中で、自分の経験から得た人生観を話していました。大学を中退して、カリグラフィー(洋風習字)と出会ったおかげで、世界で初めて美しいフォント(書体)を搭載したパソコンを開発した話や、ガンとなって死に直面することで、自分の直感や心に従うことの大切さを改めて感じた話など。人生において何を大切とすべきかを、これから社会に出る学生に話す感動的なスピーチでした。
ジョブズは、この言葉で締めくくります。
“Stay hungry, stay foolish!(ハングリーであれ、愚か者であれ!)”
この言葉にジョブズの生き方が全て表れているのでしょう。この言葉を紹介しながら、「私自身いつもそうありたいと思っているし、これから卒業するあなたたちにもそうあって欲しい」とスピーチを終えます。
私の解釈では、ジョブズは「新しいことに挑戦すると、人から愚かに思われるかもしれない。でも、人生は1回きり! そんなことは気にせず、自分が信じた道をハングリーに進もう!」と、私たちに伝えようとしたのかなと思いました。
ジョブズが締めに選んだこの言葉は、70年代半ばに、当時の若者が熱狂した『Whole Earth Catalog』という本の裏表紙に書かれていた言葉だそうです。
そう、「本の裏表紙」です。
私は何度か、このスピーチを聞いた後に、気がつきました。
誰でも買えた本の裏表紙に、人生を変える言葉と出会うチャンスがあったのか……。
そんな、なんでもないところにチャンスって落ちているのか!
それまで自分の日常にチャンスなんて落ちていないと思っていました。例えばダボス会議やセレブが集まるパーティなど、普通では入れない特別な場所に、チャンスが落ちていると思っていたのです。
このスピーチを聞いて、それは大間違いだったと気がつきました。
人生を変えるようなチャンスは、ふとした日常の中にも落ちているのです。大切なのは、特別な出来事に出会えるかではなく、自分の心が動いた出来事をつかんで離さないことだと気がつきました。
例えば、人からもらった褒め言葉、ふと思いついたアイデア、何かのお誘い、人との出会い、感動したニュース、新しく学んだこと……。
日常の中で、“自分の心が動いた出来事”が「チャンス」なのだと、気がついたのです。
それから、自分の心が動いた出来事を慎重に探し始めました。