小さなチャンスでも、見落とすよりはマシ

じゃあ、いったいどんなチャンスを書いていたでしょうか。嬉しいこと日記と同じで、最初はひどいものでした。思い出深いひとつの例をご紹介します。

ある日、会社で、お客さんに送ったはずの書類が届いていないと大騒ぎになったことがありました。

それは上司から「山田さん、これお客さんに送っておいて」と頼まれて、私が送った書類でした。私は、上司から手渡された書類を持って、会社の前にあるコンビニに行き、自腹で切手を買って、郵便ポストに出していたのです。

山田智恵『ミーニング・ノート』(金風舎)

そうなんです。今でこそ笑い話ですが、世間知らずだった私は、会社に宅急便のシステムがあることも、経費は会社に申請できることも知りませんでした。「手紙といえば、切手を貼ってポストに投函」という方法しか頭になかったのです。

そして、会社の人に世間知らずであることを知られてはいけないと思って、必死に隠していたので、何も聞けずに「私は全部知ってますから」という顔をして過ごしていたのです。それが原因で、社内の追跡システムがある宅急便を使わずに、郵便ポストで出すという間違いをしてしまったのでした。

運悪く、そんな風に切手を貼って、郵送していた書類のうちの1つが、失くなってしまいました。

当然ですが、上司に怒られました。「なんで、郵便ポストから出したの!? どうして社内の宅急便を使わないんだ!」

怒られて初めて、社内の宅急便という仕組みがあることを知ったのです。「そんな便利な仕組みがあるのか!」と驚いて、その日のノートには、こう書きました。

重要書類は宅急便で。

怒られたことで新しく学んだことを、チャンスだということにしたのです。

これがチャンス?

正直、私は、自分のチャンスの小ささに泣けてきました。32歳ともなれば、仕事で活躍している人は、社内で社長賞をとったり、海外駐在になったり、最年少で係長とかになっている人もいました。それに比べて、私は宅急便のことを知ったことがチャンスだなんて……。

でも、どんなになげいても、起きたことを変えることはできません。「チャンスを見落として後悔するよりはマシ!」だと考え直しました。

どんなに小さなチャンスだとしても、どんなに望んでいないチャンスだとしても、自分の毎日の中で心が動いたチャンスをつかむしか、私にできることはない。そのチャンスから、必ず何かを得よう!

そんな覚悟が生まれた瞬間でした。

とにかく、1ミリでも心が動いたものはチャンスとみなして、そのチャンスにどんな価値や可能性があるのかを考えて一緒に書き始めたのです。

・経理の高沢さんに親切にしてもらった。今度困ったら相談しよう。
・生活費を稼ぐためだけに、人生のほとんどの時間を使いたくないと気がついた。
・恵比寿駅で震災のボランティアに来た外国人に道を聞かれて立ち話。送ってあげればよかった。
・ちきりんの「働かない生活」という提案、新しい。

こんな書き方に変えてから、私の人生は一気に変わっていきました。

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山田 智恵(やまだ・ともえ)
ダイジョーブ代表取締役

1977年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。父親が経営する会社に入社するも、2009年にリーマンショックの煽りを受けて、民事再生を申請。創業者である父と家族全員が会社を去ることとなり、一家全員無職になる。2010年からノートを使った振り返りをはじめ、人生が好転。転職した一部上場企業ではソーシャルメディア事業部部長として活躍し、外資系ベンチャー企業の役員を同時に務める。2016年にダイジョーブを起業。自身が実践していた、自己理解を深める内省手法を「ミーニング・ノート」というメソッドにまとめ、講演やワークショップを実施している。著書に『ミーニング・ノート 1日3つ、チャンスを書くと進む道が見えてくる』(金風舎)、『できる100の新法則 Instagramマーケティング』(インプレス)(共著)などがある。