潜在的な不良債権予備軍

現在の中国も同じパターンに陥る可能性があります。過去とは比べられない規模で紙幣を増刷し、国債や政府債の裏付けもありません。中国人民銀行が金融の緩和を行い、景気を支えると主張し続けるほど、信用不安が増大していくという悪循環に嵌まっています。

これまで、人民銀行はドルを大量に買い上げ、膨大なドル準備を背景として人民元を支えてきました。つまり、ドルの発行量に合わせ、人民元も増発されてきたのです。

2008年のリーマン・ショック以降、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は3回に渡る量的緩和を行い、ドル発行残高を約4.5倍に拡大させてきました。人民元の発行量はドルの発行量とピタリと並行して推移しています。増大する人民元で、中国政府主導の不動産開発が行われ、バブル経済が醸成されてきました。

ドル発行の並行関係の均衡が、これまでの人民元の一応の価値裏付けであったのですが、その均衡が崩れ、人民元だけが今後も増大していく見込みであり、それがどこまで続くのかが問題です。アメリカのトランプ政権が輸入関税を更に課すとすれば、その衝撃を和らげるために、中国は人民元安を誘導せざるを得ません。

すでに、人民元安の更なる進行を見越してキャピタル・フライトも発生しています。消費者物価の不気味な上昇も顕在化しています。消費者物価の上昇は豚コレラの影響から豚肉の供給が落ち込んだということだけが原因ではないでしょう。また、各国の企業がサプライチェーンの再編を進め、「脱・中国」を図ろうとしています。

李克強首相は金融政策について、「引き締め過ぎず、緩め過ぎないように維持する」と述べていますが、中国人民銀行は預金準備率を頻繁に引き下げ、金融機関からの貸出総量も急増しています。

一方で、企業業績が悪化し、社債のデフォルトも頻発し、中小規模の銀行を中心に、不良債権問題が深刻になっています。BIS(国際決済銀行)によると、中国の企業債務(金融機関除く)の名目GDP比率は2018年に253%に到達、これは、2008年の142%と比べても、深刻なレベルです。国家の債務を企業が事実上、肩代わりさせられていると言ってもよいでしょう。

一部の企業を除き、中国企業の大半が今後、付加価値を創出できる可能性は低く、流動性の過剰供給がかえって、潜在的な不良債権予備軍を増大させ、債務問題を深刻化させるのではないかと見られています。中国の債務問題は既に解決不能と見た方が良いのかもしれません。中国政府がそれを巧みに隠蔽していますが、ひと度、信用不安に火が付くと、制御することはできません。中国は、アメリカの保護主義的な動きのせいで、貿易摩擦が長引き、経済に悪影響を与えていると説明していますが、中国経済の停滞はもっと構造的な問題です。

中国は債務問題を根本的に解決できない状況で、過去の王朝のように、紙幣増刷にのみ依存して、その場しのぎをしています。歴史的に繰り返されてきた、この手法は必然的に遅かれ早かれ、破綻します。

危機は意外な形で不意討ちの如く、突然やってきます。結局、いつ、どのような形で崩壊がはじまるかということは誰にもわかりませんが、その危機が中国のみならず、世界経済を揺るがす甚大な被害に繋がるのは避けられそうもありません。

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宇山 卓栄(うやま・たくえい)
著作家

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家。テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなど各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。近著に『朝鮮属国史――中国が支配した2000年』(扶桑社新書)、『「民族」で読み解く世界史』、『「王室」で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)など、その他著書多数。