どうしてもやりたいことがあった

理由は、教育事業への強い思いだった。明るく社交的な印象の道村さんだが、幼少期はアレルギー体質だったこともあってコンプレックスが強く、かなり引っ込み思案だったそう。今があるのは、教員だった両親がいろいろなことに興味を持たせようと工夫してくれたおかげなのだという。

さらに、人事部で採用面接を担当していた時には、夢や目標を持っている学生と持っていない学生との差に疑問を感じた。人生を意欲的に生きていくには、子どものうちに知的好奇心を育むことが大切なのかも──。そう思った時、自分にできることとして真っ先に浮かんだのが教育事業だった。とはいえ、当初は「起業なんて夢にも考えていなかった」と振り返る。

社内で立ち上げた事業は資金ショート

「実は一度、社内で教育事業を立ち上げたんです。でも1年半ほどで資金が尽きて、『これ以上の出資は無理』と言われてしまいました。選択肢は、教育事業をあきらめて会社に残るか、退社して起業するかの2つ。悩みましたが、やっぱりあきらめたくないという気持ちが勝ちました」

そこから暗中模索の日々が始まった。IT企業での経験を生かそうと、子ども向けの“オンラインでの習いごと”に的を絞ったものの、どんなニーズがあるのかは未知の世界。道村さんはまず数十人のママたちにインタビューを行い、そこからオンライン英会話というアイデアを導き出した。

続いて取りかかったのは、バイリンガルの講師やWebサイトをつくる技術者、機能検証用のモニター探し。SNSで声をかけまくり、人材を確保してホッとしたのもつかの間、今度は資金調達のための投資家探しや事業計画書づくりが待っていた。

4年間で一番つらかった時期

「一番つらかったのは、機能検証と資金調達が同時に動いていた3カ月間。もう記憶がないぐらい猛烈に働きました。事業計画書をつくるのも初めてだったし、これで生活が成り立つのかどうかもわからないし、本当に不安だらけで。経営者ってこんなに孤独なんだと痛感しました」

創立から4年がたった今でも、あの時が一番つらかったという道村さん。それでもあきらめなかったのは、オンライン英会話の意義と、事業としての将来性を確信していたから。「ここで頑張らないと私の事業がなくなっちゃう」という焦燥感も、逆に力になった。

「やりたいと思ったことに対しては、割とタフみたいです(笑)。今やれることは全部やらないと、きっと後で後悔するぞって自分に言い聞かせていました」