必要なのは浸透ではなく皮脂の補強

そして、「からだを守る」機能に加えて、「からだから逃がさない」機能としても、皮脂のバリアが重要です。健全な皮膚の表面は皮脂で覆われ、脂質(セラミド)や天然因子・水分が逃げないように守られています。

落合博子『美容常識の9割はウソ』(PHP研究所)

しかし、一旦バリアが破壊されると保持されるべき物質が角質から外に流出し、乾燥を引き起こすのです。

肌へ化粧品の成分を浸透させようと思うと、バリアを破壊する必要があります。しかし、バリアを破壊すれば肌の大事な成分が保持できなくなり、頻回に化粧品をつけても乾燥するという悪循環を生みます。

大事なのは、正常なバリア機能を邪魔しないこと。化粧品を浸透させるのではなく、バリアとなる皮脂を補強するような化粧品の使い方を意識することです。

どんな肌にも自己再生力がある

ここまででもおわかりかと思いますが、巷にあふれている広告はとても魅力的ですが、文字どおりほとんどが「宣伝」です。

たしかにさまざまな研究が進み、新しい成分がつぎつぎに登場し、あらたな効能の科学的エビデンス(検証結果)がとれているものもあるかもしれません。しかし、肌トラブルが生じたときにいつも立ち返って思い出していただきたいのは、肌本来の役割。

そう、バリア機能です。

このバリア機能をしっかり維持することができれば、肌はおのずと美しくなる力を備えています。肌トラブルが生じたとしても、わたしたちの体内では絶えず細胞が生まれ変わっていますから、少し待っていれば新しい肌に生まれ変わるのです。

手術で皮膚をどんなに上手く切り貼りし、美しく縫合する技術を施せたとしても、傷が最終的にキレイに治っていく過程は、人体の自己再生力なくしてはあり得えません。そして、どんな肌にも、その力は備わっているのです。

ちなみに、表皮のターンオーバーは約6週間サイクルでおこなわれるといわれています。ですから、ちょっと乱暴ないい方をすれば、6週間肌の機能を邪魔しないように待てばいいのです。

もちろん、食べものや生活習慣、ストレスなども肌の状態に影響しますが、肌に関する正しい知識を持っていれば、何をして何をしなくていいかが、わりとスッキリ見えてくると思います。

写真=iStock.com

落合 博子(おちあい・ひろこ)
国立病院機構東京医療センター形成外科医長、再生医療研究室室長、日本抗加齢医学会専門医

1991年東北大学医学部を卒業。医師免許取得後、形成外科、創傷外科の専門医としての勤務を経て、2003年より国立病院機構東京医療センターで形成外科医長を務める。