究極の「ケチケチ休暇」とは
究極の「ケチケチ休暇」は、旅行せずに自宅で過ごすことだ。朝は目覚まし時計をかけずに、毎日7~8時間ぐっすり眠る。昼にはベランダに長椅子とビーチパラソルを置き、水着姿で本や雑誌を読みながら太陽の光で肌を焼く。ベランダに小さなテーブルを出して食事をしたり、ビールを飲んだりすれば、ちょっとしたリゾート気分。時々自転車に乗ったり、近くの湖へ泳ぎに行ったりするが、夜は自宅に戻る。
自宅で休暇を過ごせば、空港でのチェックインや安全検査のために待たされたり、レンタカーで見知らぬ土地を走って道に迷ったりするストレスはない。私の知り合い、特に年配の知人の中にはこうした休暇を過ごす人がいる。
ドイツでは近年、「自宅バカンス」を楽しみやすい日が増えている。ここ数年地球温暖化の影響か、夏に晴天が続き、気温が過去に比べて高くなることも大きいようだ。
たとえば2018年の8月には、ミュンヘンで気温が30度を超える日が1週間近く続いた。1990年代には、気温が30度を超える日は8月でもせいぜい数日というのが普通だった。
だが、2018年8月には屋外へ出ると身体が熱気に包まれ、まるで南イタリアのシチリアにいるような気がした。ドイツでは珍しく夜になっても気温が下がらないので、寝苦しい日もあった。ドイツのアパートには日本のように壁に穴を開けて設置するエアコンがほとんどない。私の自宅では扇風機と、移動式の冷房機(機械の前にいると冷風が来るが、部屋全体が涼しくなることはない)をフル稼働させた。
自宅の修理も自前で
私の知人は、「今までこんな夏はドイツで一度も経験したことがない。これならば太陽の光を求めてわざわざ南ヨーロッパへ旅行する必要はないね」と語っていた。ドイツ気象庁によると、2018年の4~8月の降雨量は、この国で1881年に気象観測が始まって以来最も少なかった。8月の平均気温は、2003年に次いで観測史上で2番目に高かった。屋外で過ごすには、もってこいの気候である。これからは、お金を節約するために自宅バカンスを楽しむ人が増えるかもしれない。
また休暇中に、自宅の修理や模様替えをする人も少なくない。材料を買ってきて庭に東屋や池を造ったり、居間の照明設備を新しくしたり、浴室にタイルを張ったりするなどして、休暇を「自分の家族のための労働」に費やすのだ。
ドイツには19世紀末から20世紀初頭に建てられたアパートが数多く残っている。こうした歴史的建築物は天井が高く、新築のアパートに比べるとゆったりとした造りなので人気がある。老朽化したアパートの部屋を安く買い取り、修繕して付加価値を高めて自分で住んだり、他人に売ったりするドイツ人も少なくない。
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1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。著書に、『次に来る日本のエネルギー危機』、『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』(青春出版社)、『住まなきゃわからないドイツ』(新潮社)、『なぜメルケルは「転向」したのか』、(日経BP)、『偽りの帝国 緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(文藝春秋)など多数。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム基金賞奨励賞受賞。