自転車での長距離旅行も

自転車道と車道、歩道の区別は、日本以上に厳格だ。市民が間違って自転車専用レーンを歩いていると、サイクリストから「ここは歩道ではない!」と怒鳴られることもある。日本では自転車専用レーンが少ないので自転車が歩道を走る風景が日常化しているが、ドイツでこれをやると通行人から白い目で見られる。この国の歩道を自転車で走るのは交通規則違反だ。時々警察官が歩道を走るサイクリストを止めて、罰金の支払いを命じているのを見かける。

自転車で小旅行をする人のためのサイクリング用地図や、サイクリスト用のナビゲーション・アプリも売られている。1週間かけてミュンヘンからウィーンへ自転車で旅行したり、自転車でアルプス山脈を越えてイタリアのヴェローナまで走った猛者もいる。途中のホテル代などはかかるが、飛行機や列車などの交通費は節約できる。

ちなみにドイツでは、毎日自転車で会社に通勤する人も少なくない。早朝、そして夕方の町は、自転車で通勤・帰宅する人であふれる。私は毎朝5時に起きるのだが、窓から外を見ると、夜明け前の暗がりの中に、自転車で職場へ向かっている人の前照灯が見える。

私の知り合いは、ミュンヘンの北西約20キロの所にあるダッハウという町に住んでいる。彼は自宅とミュンヘン市内の職場の間を、毎日自転車で往復している。気温が零度以下になる真冬でも、雪がたくさん積もっている時や道路の表面が氷で覆われてスケートリンクのようになっている時以外は、自転車で通勤する。電車代や自動車のガソリン代を節約できるだけではなく、身体を鍛えることにもなるので一石二鳥だ。

自転車通勤は「クール」

連邦制をとっているドイツでは地方分権が進んでおり、16の州政府に大きな権限が与えられている。首都ベルリンに機能が集中していないため、大企業はベルリンに本社を置く必要がなく、日本やフランスのような一極集中化現象が起きていない。このため首都ベルリンでも人口は約360万人。2位のハンブルクは約180万人、3位のミュンヘンは約150万人である。いずれも東京都の人口(2018年7月の時点で約1400万人)の足下にも及ばない。このため、大都市でも日本のような過密現象は起きておらず、都市の規模が比較的小さいので、自転車による通勤が可能なのである。

最近では、電動モーターを組み込んで、体力が弱い人でも上り坂を簡単に上れる電動自転車や、街角に設けられた駐輪場で自転車をピックアップして、使用後に乗り捨てる「自転車シェアリング」も爆発的に普及しているので、今後ドイツでは自転車を利用する人がさらに増えると予想される。

また、ドイツには環境意識が高い人が他国に比べて多い。彼らにとって、排ガスで空気を汚染しない自転車で会社に通勤することは、「クールな(かっこいい)」生き方である。

ドイツのある大手企業の社長は、運転手付きの社用車ではなく自転車で毎日自宅から本社に通っていた。毎年数億円の年収があっても、自転車で通勤する。ドイツ人らしい、環境に負荷をかけないことを良しとするシンプルなライフスタイルである。