ドイツ人はお金をかけない娯楽が好き

これに対してドイツ人の娯楽は、日本人とはずいぶん異なる。彼らが余暇に最も重視しているのは都会でのショッピングではなく、海辺や山で自然を満喫すること、そして家族と一緒の時間を楽しむことだ。ドイツの公的健康保険運営組織DAKが2018年に行ったアンケートによると、「休暇の最大の魅力は、太陽の光と自然」と答えた人が最も多かった。

アルプス山脈の北側に位置するドイツでは、天気が良い日は少なく、晴天が多い時期は5月から9月までと比較的短い。1年間のうち、ほぼ半分は曇りや雨の肌寒い天気である。

つまり屋外での活動を楽しみやすい時期が、限られているのだ。ドイツの毎年の平均日照時間は約1500時間。南仏マルセイユ(2858時間)やポルトガルのリスボン(2799時間)などに比べるとはるかに短い。このためドイツ人たちは、晴れの日が多い季節にはなるべく外に出て、太陽の光を浴びようとする。

サイクリング天国・ドイツ

この国で最も人気のある余暇の過ごし方の一つは、サイクリングだ。自転車を買ってしまえば、あとはそれほど費用がかからない趣味だ。

ミュンヘンを流れるイザール川沿いのサイクリングコースは、市民の間で非常に人気がある。このコースは鬱蒼うっそうとした樹木に覆われている。木漏れ日を浴びながら川に沿った道を南下する。自転車をこぎ疲れたら、川に飛び込んで水浴びをしたり、河原にタオルやシートを敷いて日光浴をしたりする。一日中ここに寝転んで本を読んでいれば、お金はほとんどかからないさらに足を延ばせば、ミュンヘン郊外の教会や修道院の敷地内にあるビアガルテン(ビアガーデン)で、太陽の光を浴びながらビールを飲める。地平線のはるか彼方のアルプス山脈を見ながら飲む生ビールの味は、格別だ。

列車に自転車を積んでさらに田園地帯へ行けば、アルプス山脈の麓の湖で泳ぐこともできる。ミュンヘンから列車で1時間もかからない。ドイツ人は衛生に気を遣うので、地方自治体は湖や川の水質を厳しく監視している。汚染者に対する罰則も厳しい。このためバイエルン州の湖は、驚くほど透明であり、浅瀬では小魚が泳いでいるのが見えるほどだ。

湖で泳ぐ爽快さ

私は日本では湖で泳いだことが一度もなかったが、この国では湖で泳ぐのは日常茶飯事である。これらの湖にはアルプス山脈の雪解け水が流れ込んでいるので、水温は夏でも低く爽快である。ドイツの湖で泳ぐと、美しい自然を守ることがいかに大切であるかが、理屈ではなく皮膚感覚で理解できる。

大自然の懐に抱かれて泳ぎ、草地に寝転んで日光浴をしていればほとんどお金はかからない。私も1990年にミュンヘンに住み始めた直後には、収入が少なかったこともあり、夏になっても飛行機などによる旅行はせずに、自転車で「市内・近郊バカンス」ばかり楽しんでいた。別に遠出をしなくても、充実した余暇を過ごすことができた。

ドイツへ旅行や出張をした経験のある読者は、この国で自転車が目立つことに気づかれたと思う。

その理由の一つは、自転車向けインフラが整っていることだ。ドイツでは、サイクリストのための自転車専用レーンが日本よりも整備されているので、走りやすい。歩道の一部に白い線が引かれて自転車専用レーンが作られているだけではなく、車道と歩道の間に自転車専用レーンがつくられている場合も多い。