海外では「わたし、定時で帰ります」は成り立たない

また、残業が常態になっているのも、日本の働き方の一つの特徴です。今年「わたし、定時で帰ります」というドラマがありましたが、定時に帰って当たり前の海外では、これがドラマのタイトルになることが理解されないでしょう。「わたし、残業します」なら、ありえるかもしれませんが……。

一方で、欧米の企業でも、管理職や役員、幹部候補の人はしばしば残業をします。休日も働き、自宅でも働いているようです。ただ、そういう人たちは、40代半ばごろまでにひと財産築いて、50歳手前で引退し、その後はのんびりと過ごすという目標を立てて働いている人が多いと思います。そういうビジョンが見えていれば、多少無理をしてバリバリ働くのも1つの選択肢になりえるでしょう。

こういう、残業をしてまでバリバリ働いて早めに引退するほんの一握りの人以外は、早々に出世のレースから降りています。それなりの稼ぎで、家庭を大事にするという人が多いのです。

日本は末端の人まで長時間労働なのが問題なのです。そして、昇進の到達点が見えてくるまでが長い。「もしかしたら自分も上に行けるかもしれない」と多くの人が思うので、なかなかレースから降りられません。幸せは人それぞれですが、早めにレースから降りて、そこそこの稼ぎでやっていくという選択肢が少ないのも問題です。

いずれにせよ、何のビジョンも見えないまま長時間労働を強いられるのでは、積極的に管理職になりたいという女性が増えにくいのは当然と言えるでしょう。

女性公務員の数が少ない

日本社会の特徴の2つ目は、公的雇用が少ないこと。諸外国では、公務員は女性職で、女性のほうが圧倒的に多いのです。例えば北欧諸国は、公的雇用を通じて、女性の社会進出を支えてきました。しかし日本は、政府による雇用創出の利益を得られているのは、男性が多い。せっかくの公的雇用なのに、女性を活用できていません。

そもそも、日本は他国に比べて公務員の数が少ないのです。日本では公務員を増やさない代わりにいわゆる外郭団体を増やしてきたという経緯はありますが、そういった組織による雇用を考慮しても、まだ少ないのです。

欧米諸国は福祉国家が成熟した後に行政改革を開始しましたが、日本は経済発展の早い段階で公的雇用の膨張を防ぎ、公務員数の増加を止めてしまいました。さらには、財政が厳しくなってくると、公務員は減らすべきだという声も出てきます。最近になって少しずつ変わってきているかもしれませんが、これまでは「公務員を増やすなんてとんでもない」という声のほうが多かったように思います。

日本的雇用の構造も、公的雇用が少ないことも、女性を排除しようと思ってやったことではありません。しかし、結果的に不利な条件がそろってしまっているのです。

参考文献
前田健太郎(2014)『市民を雇わない国家』(東京大学出版会)

構成=梶塚 美帆 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。