昭和上司だけでなく、女性も慣習に染まっていく

近年は、多様な働き方や、皆が働きやすい環境の実現が叫ばれています。しかし、これはあくまで将来的な目標であって、現実にはまだまだ慣習のほうが幅を利かせているようです。明文化されていない慣習は、実態がつかみにくく、さらには、長年のうちに根付いたものですからなかなか変えられません。

これは昭和上司だけの話ではなく、フルタイムで働き続けている女性も同じです。人は、一つの環境にいる時間が長ければ長いほど、そこの慣習に従った行動をするようになります。長年、同じ企業風土の中で働き続けていれば、女性も男性と同じように、おかしな慣習も普通に思えるようになるでしょう。

台風の日に、上司が「今日は出社しなくていいよ」と言ったとしたら、あなたは言葉通りに受け取って休むのでしょうか。それとも、忠誠心を試されていると思って出社しようとするのでしょうか。上司の言葉が本心なら何の問題もありませんが、建前の正義を口にしただけの可能性もあります。

「残業しなくていいよ」や「男性も育休をとるべきだ」にも同じことが言えます。現実的には、この言葉が本音なのか建前なのかわかりにくい場合が多く、無難な選択をするなら残業をする、あるいは、男性であれば育休はとらないという具合に慣習に従うのが一番、ということになりがちです。

語るだけでなく実際に休もう

本音と建前の探り合いが続く限り、従来の慣習も続きます。そんな不毛なことはそろそろやめて、現実の行動を変えていく努力をすべきでしょう。「台風の日は休むべきだ」と語るだけでなく実際に休む。「満員電車はおかしい」と思うのなら出社時間をずらす。各企業がこうした行動をとれば、誰もが働きやすい社会に一歩近づけるのではないでしょうか。

働き続けていれば、台風の日もあれば家庭の都合で出社できない日もあります。そんな時にも合理的かつ臨機応変に対応できるよう、今後は皆で働き方の仕組みを変えていく必要があります。仕組みを変え、行動を変え、慣習を変える。そうした取り組みが働きやすさにつながっていくのだと思います。

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田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。