エスカレーターの上を歩く人も同じ

とはいえ、最近は、多様な働き方ができる企業も増えてきました。ベンチャー企業では、働く時間や場所を社員自身が選べるところも少なくありません。こうした働き方が広まれば、台風出社や通勤ラッシュのような異様な光景は減っていくはずです。企業も社員も「決まりだから」という思い込みは捨てて、早急に柔軟な仕組みづくりに取り組んでほしいと思います。

決まりだからという思い込みが長く続けば、それはやがて企業の慣習になります。新しく入ってくる若い社員もまた、皆がそうしているからという理由で慣習に従うようになるでしょう。慣習は「行動」を積み重ねることで出来上がるもの。そして、従う人が多ければ多いほど、本当は異常なことも普通のように見えてきます。

一つ例を挙げてみましょう。駅のエスカレーターは本来、歩行禁止であり、鉄道会社もポスターや放送などで歩かないように呼びかけています。しかし、現実には皆が片側を歩く人用に空けていて、そこを当たり前のように登っていく人もたくさんいます。この場合、歩行禁止は「決まり」で、片側を空けておくのは「慣習」です。皆がそう行動しているから、いつの間にか空けておくのが普通になってしまったわけですね。

私は、自分の3歳の子どもにはエスカレーターを歩かないように言っていますが、一緒に乗るたびに「みんな歩いてるよ」と不思議そうな顔をします。返事に困って「あれは悪い人なんだよ」と言ってはみるものの、これではとんでもない数の悪い人が駅にいることになり子どもも納得いかない様子です(笑)。

実は恐ろしい決まりと慣習の取り違え

同じように、労働時間8時間は「決まり」。これは最低限8時間働きなさいということではなく、8時間働いたら十分という意味です。それなのに、日本ではいまだにほとんどの企業が8時間を最低限と捉え、社員に求めています。これもまた、長年の間に出来上がってしまった慣習の一つと言えるでしょう。

9時の始業時間には全員が出社しているけれど、17時の定時で帰る人はほとんどいない。そうした職場は、企業自体もそこで働く人たちも、決まりと慣習を取り違えている可能性があります。私は、この取り違えこそが多様な働き方の実現を阻んでいるのだと思っています。