“お金持ち”のイメージのあるタレントだが……

世の中で、俗に“お金持ち”とか“資産家”といわれている人達といえば、タレント、お医者さん、そして企業のオーナーいったイメージでしょう。彼らに共通して言えることは、収入が必ずしも一定ではないことです。オーナーなら事業が当たれば、大きな儲けが出るし、タレントは有名になれば、出演料やCMで大きな収入が入ってきますが、下手をすれば一銭も入ってこないことだってありえます。つまり「入」は読めないのです。一方、「出」は、特別に贅沢な生活をしていなければ、ある程度読めるはずでしょうが、タレントなどは仕事柄生活が派手になりがちだし、商売や事業をしていると設備投資や商品の仕入などの機会があれば、資金を出さざるを得ません。つまり不安定な収入と意図せざる支出に悩まされ続けることになるのが彼らの生活なのです。

これに対して会社員の場合、収入はずっと安定していますし、支出にしても大きな病気にでもならない限り、あまり意図せざる出費というのはありません。すなわち「入」と「出」がきちんと読めるのが会社員なのです。したがって、やり方さえ間違わなければ会社員の方がずっと計画的に資産形成ができ、お金持ちになれる可能性はあります。にもかかわらず、多くの会社員はなかなか資産形成ができません。これは一体どういうわけでしょう?

将来の蓄えが増えない2つの理由

これには「現在バイアス」という心の罠があります。これはいやなことや面倒なことを先延ばしにしたいという心理です。例えば小学校の時の宿題を夏休みが終わる前ぎりぎりになって慌てて取り組んだという人は多いでしょう。宿題という嫌なものは早くやるに越したことはないとわかっていてもつい目先の利益、つまり遊びに行く方を優先させてしまう傾向、これが現在バイアスなのです。このため、人はどうしても老後のための資金を貯めるよりも遊びや買い物に使ってしまいがちになってしまう傾向があるのです。

さらに厄介なことに遠い将来に得られる利益の価値を低く見積もり、目先の価値をより高く評価してしまう「双曲割引」という心理現象もこれに加わるから余計に将来に向けた蓄えは難しくなります。1年後のスリムな体型を想像する楽しみよりも目の前のショートケーキの美味しい誘惑の方が魅力的に決まっているからです。

会社員の場合を考えてみると収入はほぼ一定なので問題ありませんが、支出がこの現在バイアスや双曲割引によって大きく乱れがちになります。資産形成のために計画的に貯蓄や投資をすべきだとわかっていながら、どうしても目先の旅行や食事などの楽しいイベントにお金を使ってしまうということになりがちです。さらに買い物についても本来は計画的に支出していくべきなのですが、つい衝動買い等をしてしまうということも起こりがちです。