EU離脱が決まってから、政治や経済が不安定なイギリス。ロンドンとノッティンガムで、独自の価値観を持って常に上を目指す女性たちに出会いました。

週に2日はプチ単身赴任。息子の視点や発想はアイデアの源

美術大学のなかでは世界で唯一、博士号が取得できるロンドンの英国王立美術大学。ディラン・ヤマダ・ライスさんは、ここで週に2日間、「情報体験デザイン」の上級講師として学生のワークショップを指導している。今期は“物語の伝え方”がテーマだ。

(写真左、右上)ディラン・ヤマダ・ライスさん。マンガを描くのが趣味。筆などの文具は日本のものがお気に入り。(同右下)1人に1台コンピュータ付きデスクがあてがわれる英国王立美術大学。学生とは友人のような関係で、和気あいあい。

講師だけが彼女の仕事ではない。現在、別の週2日はイギリス北部のリーズにある子どものためのデジタルゲーム会社でリサーチやデザインを請け負っている。2つの拠点で2つの仕事をしているというユニークな働き方だ。

「自分が普段から張り巡らせている興味や情報のアンテナが、たまたま今の仕事をキャッチしてこうなった」と言う。2つの仕事がそれぞれ違う刺激を彼女に与え、どちらの仕事にも良い効果を与えているそう。

「“物語”や“子ども”は、私が小さな頃から好きだった対象です。アートやデザインの手法でこれらを創造し、表現することが夢でした」とほほ笑む。

大学講師を務める2日間は自宅から離れてロンドンに滞在する、プチ単身赴任の生活。ロンドンの仕事を受けるかどうかは、子どもの判断次第だった。小学生の子どもを、アーティストの夫に任せて自分は仕事に打ち込むことについて、家族でよく話し合った。

「息子が『いいよ』と言ってくれたおかげで、可能になりました。私が自宅にいるときは、必ず学校の送り迎えを担当します。リサーチなどで海外へ出張するときは、学校が休みなら、一緒に息子を連れていきます。彼の視点や発想からアイデアをもらったり、学ばされたりすることもあるんです」

最近では、病気療養をする子どもたちのためのビデオゲーム開発にも参画している。クリエーティブな世界と子どもたちを結びつけ、彼女の夢は現実となり大きく育っていく。

▼1日のスケジュール
6:30 起床。
7:00 シリアル、ピーナッツバターのトースト、バナナなどの朝食。
7:30 自宅にいるときは、子どもを学校に送っていく。
9:00 自宅にいるときはゲーム会社に、ロンドンにいるときは大学に出勤。
13:00 昼食。会社ではリサーチやデザイン会議、クライアントと打ち合わせ。大学ではワークショップ。
19:00 夕食。
23:00 就寝。
▼my favorite
●好きな映画→濱津隆之主演『カメラを止めるな!』 ●愛読書→松本大洋、べルギーのブレヒト・エヴァンスのコミック
ディラン・ヤマダ・ライス(Dylan Yamada-Rice)
デジタルゲーム会社デザイナー・大学講師
1975年、コーンウォール生まれ。ロンドン大学を卒業後、京都大学に留学し狩野派の絵画を研究。その後、シェフィールド大学で博士号取得。大学講師とゲームデザイナーを兼務。