暗黒期を経た自信の笑顔
新天皇即位に合わせて出版された『消えたお妃候補たちはいま~「均等法」第一世代の女性たちは幸せになったのか』(小田桐誠/ベスト新書)には、浩宮さまのお妃探し当時の経緯や関係者がひっそりと考えていた「お妃の条件」、そして候補となった全70名の女性の「その後」が記されており、日本社会の女性観を考える、とてもいい材料になる。
皇族・旧皇族や華族を表す「宮さま」に対し、「平民」というボキャブラリーが出現する世界。3代遡って「傷」のない「血統」、(本来の厳格な皇室の価値観にこだわる人はとくに)カトリックの聖心は神道を掲げる日本の皇室としては異端で、学習院こそ正統との考え方。そうは言いながら大学は共学だと虫がつくからと嫌がられ、名門女子大出身者、しかも「お妃に上司がいては面倒」だから「就職せず、働いた経験のない女性。OLは許されない」。そして当たり前のように「容姿端麗」。
お妃の条件には、人を構成する条件、スペック、つまり「箱」しかない。本人がどんな人格で、何を大切にする価値観や哲学の持ち主なのか、「中身」など誰も問うていないのだ。
そんな時代錯誤なお妃候補などに「なってしまった」女性たちは、候補返上の意思表示として、続々と就職したり、海外留学したり、他の男性と結婚したりして、さっさと逃げた。あるいはピアスの穴を開けて、自ら「(伝統的な価値観の人々が考える)傷モノ」となり、NOの意思表示をしたのだという。
傷モノだったなら、あるいは自ら傷モノになってしまえば、囚われなくて済んだのに。でもそんな発想のない雅子さまだからこそ、「適応障害」の暗黒期を経て皇后となった今、30年前のあの時に彼女自身が思い描いたとおりの「優れた象徴外交」を通して、不器用ではない、彼女本来の自信に溢れた笑顔を見せてくれている。
写真=時事通信フォト