大切なのは「なぜ?」と探究心。認知症の患者と家族を助けるアプリを開発

認知症の兆候をチェックし、日常生活の改善によって進行を遅らせる。そんな技術をスマホのアプリで実現したのが、エリ・キャプランさんが創設した「ニューロトラック・テクノロジーズ」だ。起業のきっかけは、祖父母がアルツハイマー型認知症になったこと。本人や家族の苦悩が大きいのに病気の進行を確認する手立てがなく、不安に陥るばかりという体験をした。

(写真左)エリ・キャプランさん。オフィスには社員の家族の写真が並ぶ。大切な人を助けたいという初心を忘れないためだ。(同右上)仕事にはPCとビタミン剤がマスト。

ホワイトハウスや証券会社など幅広い職歴を持つエリさんは、すべての経験が役に立っていると感じている。脳への関心はもとより、重要な研究を探し当て、研究者らを説得して共同創設者になり、有名なベンチャーキャピタルから資金を集める。好奇心や探究心を持ってアイデアを何かの形にすることは、これまで手がけた仕事に共通しているからだ。

「このビジネスに必要なのは“自信”ではなくて、わからないことに対する“好奇心”。なぜ? と自分の中で疑問を感じること。そして、誰でも学習に一定の時間を費やせば、その分野の専門家になれるはずです」

アプリが開発される前は9万ドル(約900万円)ほどの装置が必要だった。それをスマホで実現することで、世の中を少しでもいい方向へ向けられると信じている。その使命感は、エリさんがキャリアを通して持ち続けてきたDNAのようなもの。

スタートアップのCEOといえば、日々、生き馬の目を抜くような、他者との競争にさらされる。仕事では「できる人ができることをやる」を信条に、肩書に左右されない柔軟な職場を目指している。

趣味は料理。出張に出ない限りは、家族みんなで夕食をとると決めているところに、母の顔が垣間見えた。娘2人と夫とで囲む食卓では職場のこともよく話すようにしている。仕事の話には、娘たちへの人生の教訓が、たくさん詰まっているからだ。スタンフォード大学で教壇に立つ夫は、自分の生活やキャリアを理解してくれる完璧なパートナーだそう。

エリさんの今の挑戦は「自分だけの時間を持つこと」。特に何をするわけではないが、普段から自分の時間を犠牲にしがちな女性たちにとっては、とても大切なことだと語る。

▼1日のスケジュール
5:30 起床。その後スポーツクラブへ行って、健康のためにインドアサイクリングをやることも。
7:50 子どもの昼食を作りながら朝食。
8:15 出勤。やることは毎日違う。
18:00 帰宅して、夕食。毎日夕食は家族と一緒にとる。
19:30 子どもたちの宿題を見る。
21:00 自室で仕事。その後は自分だけの大切な時間。
24:00 就寝。
▼my favorite
●好きな映画→アル・パチーノ主演『ゴッドファーザー』 ●愛読書→フィリップ・ロス著『American Pastoral
エリ・キャプラン(Elli Kaplan)
デジタルヘルス会社経営
1971年コロラド州生まれ。ハーバードビジネススクール卒業。ホワイトハウス、国務省、財務省、ゴールドマン・サックス証券での勤務やスタートアップを経て、2012年に起業。