唯一の武器でランチに挑戦
そのころ出会ったのが、フードトラック事業者と出店スペースをマッチングする事業を行うMellowの石澤正芳社長だった。「それまで、『ランチ』という発想はまったくなかったのですが、石澤さんに『ランチをやってみたら?』と言われ、ランチ向けのメニューに変えることにしました」(清さん)。
しかし、新たに機材を買うお金はない。マラサダをつくるのに使っていたフライヤーでつくれるハワイのローカルフードで、競合がいないものを……と考えて行き着いたのがモチコチキンだった。
とはいえ、現物を研究するためにハワイに行くお金もない。清さんは、「昔食べた時の遠い記憶を手繰り寄せて」レシピを工夫。Mellowにオフィス街の営業場所を紹介してもらい、2006年12月からランチの営業を開始したところ、これが大当たり。「正直、モチコチキンがこんなに売れるとは思っていませんでした」(清さん)というほど、行列ができるようになった。
しかし、清さんと国弘さんの2人で1台のフードトラックを使っての営業では、売れる数にも限界がある。「鶏肉を一つひとつキッチンペーパーで拭いて、筋をピンセットで取って……と時間をかけていたので、1日100~120食分を仕込むので精一杯。作った分はすべて売り切れるのですが、それ以上にお客さんはたくさんいます。『もっとたくさん用意できれば』とくやしい思いをしていました」(清さん)。
指示がなくても自走する組織
モチコチキンを売るようになって5、6年ほど経ったころからようやく、人を増やし、車を増やして事業を拡大し始めた。
「スタッフを増やしたら、『こうしたらもっと早く仕込みができる』『こうしたらもっと売れる』とアイデアがどんどんあがるようになって、1台で1日に200~300食売れるようになったんです。私たち2人の5、6年間のノウハウなんて、一瞬で超えられてしまいました」と清さんは笑う。
「私たちは『ああしろ、こうしろ』と何も言わないのに、なぜみんな、いろいろ考えて工夫し、それを教えてくれるんでしょうね?」と、2人は本気で首をかしげる。
ただ、「みんなものすごくほめ合う」(清さん)という。全員で行う仕込みの時間は、とてもにぎやか。「『このあいだこんなお客さんがいて、こんな風にしたらこんな風に言われた』『こんな風にしたら、すごく速く商品を出せた』など、とにかくずーっとしゃべっています」と国弘さん。細かいことでもみんなに報告し、「いいね!」「それはすごい」とほめ合って、良い工夫はみんながまねをするのだそう。
チキンを揚げるときのトングの持ち方、お釣りの準備の仕方など、少しでもお客さんを待たせないためのアイデアが次々と出てはみんなでまねをして、オペレーションがどんどん効率化していった。「自分のやり方が正しいとは全然思っていないので、スタッフがいろんなアイデアを提案してくれるのが本当にありがたい。スタッフには感謝しかありません」と清さんは話す。