経験とプライドを捨てられるか

40代は、男も女も、嫌でも「自分の結果」が見えてくる季節だ。学生時代の「何でもできる、何にでもなれる(ような気がする)」可能性無限大な万能感覚は、現実の洗礼を受けてとうに戒めた。30代、自分のスキルや人脈を磨いては棚卸しする作業をひたすら繰り返し、公私ともに自分の居場所を作り、さて目を上げてみると、その結果となる自分の輪郭がだいぶ出来上がっていることに気づく。ああ、そうだ、人生の結論が出始めているのだ。

各所のメディアで連載してきたコラムに大幅な加筆修正を加え、1章丸々書き下ろし、さらに18年に社会現象ともなったドラマ「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)の脚本家である徳尾浩司さんとの長尺対談も収録したエッセイ集。河崎 環『オタク中年女子のすすめ』プレジデント社

例えば今年46歳の私がここからいきなり生まれつきのパリジェンヌになることはない。NBAのスタープレイヤーになることもないだろうし、国際線のパイロットになって飲酒運転で捕まることも、まあない。

でも、ちょっとの舵取りで、小さな自己変革を生むことはできる。二人の女性放送人は、40にして職業人としての自分のありようを土台から変える努力をするほど、それまでの経験とプライドを一度黙らせて、自己変革に取り組む知性の持ち主たちだった。それもまた自分を信じられる気持ちが可能にするわざだ。知ることで、感じ方を変えることができる。感じ方を変えると、人間関係を変えることができる。居場所を変えたり増やしたり、楽しみや特技を増やすこともできる。小さな自己変革の連続で、ゆるやかに方向を変え、ゆらゆらと進んでいくことも、加速することも、思い切って飛ぶこともできる。「十分飛べる」。そりゃピークじゃないにせよ、それが40代の恵まれた体力だ。

人生100年時代、40の先にも女の人生はまだまだずっと伸びている。まだこんなところでくじけていられない。あるいは、こんなところで世の中全部見た気になって、人生に飽きていられない。だからこそ、人生後半はこれまで几帳面に計画してPDCAとやらを回してきた「想定」の外に出てみよう、その一つのアプローチとして「特定の何かに(他者から見たらアホみたいに)ハマる」「オタクになる」という方法もありますよ……と、私はこの本で皆さんをそそのかしたいのである。

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