リアルのアイドルに見向きもしない若者たち

念のため補足すると、キズナアイはAIを自称する、3Dアニメの少女。16年から活動する、VTuberの草分け的存在です。

18年春には、日本政府観光局(JNTO)公認の「観光大使」にも就任、日本観光のプロモーションサイトで、日本の食や文化の魅力を紹介し始めました。狙いは、「クールジャパン」に関心が高い、海外のミレニアル世代(若者)の取り込みにあるようです。

前田さんが18年の「ニコニコ超会議」で目にしたのは、集まった若者たち(女子高生ほか)が、キズナアイの登場を待ち焦がれる姿。彼らはリアルのアイドルには見向きもしない。それを見た前田さんは、次のように確信したと言います。

「いまの若年層はとくに、自分が好きな歌や演出、世界観など、あくまでも『コンテンツ』そのものを受け容れる。ゆえに、対象がバーチャル(アニメや3D)かリアルかは、ほとんど関係ないのでしょう」

令和時代に求められるのは堅実なキャラクター

いまやサントリー以外にも、ロート製薬の「根羽清(ねばせい)ココロ」や、DMM.comの「星名(ほしな)こむ」はじめ、企業が続々とプロモーションにVTuberを起用する時代。

また、あるレコード会社に所属する「富士葵(ふじあおい)」は、「(同キャラクターを)かわいくするプロジェクト」の名のもと、クラウドファンディング(18年2、3月)で約2300万円もの大金を集めました。

企業だけではありません。全国の自治体も、次々と関連市場に参入。埼玉県民VTuberを名乗る「春日部つくし」や、茨城県のVTuberアナウンサー「茨ひより」も、地元の名産品などを動画で紹介しながら、県のイメージアップに努めています。

こうした一連の背景には、若年層の「テレビ離れ」や「リアルの有名人離れ」があるでしょう。昭和の時代と違い、平成はネット動画やSNSの浸透で、有名人(芸能人)の知りたくない「リアル」までが白日の下にさらされました。

そして令和の現代。若者たちが憧れるのは、人間味がありながらも、夢を壊さずにいてくれる堅実な存在。グリーやサイバーエージェントグループなど、IT関連企業が続々とVTuber市場への大規模投資を発表する中で、ますますその存在感は増していきそうです。