ゾンビから「父親ゴロゴロ問題」へとシフト

だが時代は少しずつではあるが変化し、どこの企業も長時間労働是正に動いている。「年休5日の取得義務」もある。調査では「時間への意識が増した」という結果も出ている。まさに「男性育休」を推進するのに、格好のチャンスである。

注意が必要なのは、早く帰れるようになったからと言って、男性の家事・育児時間が増えるとは限らないということ。実は、仕事の時間が短くなったら女性は「家事育児時間」が増え、男性は「テレビを見る時間が増える」という調査結果がある。また残業なしの男性と比較すると、60時間残業している女性の方が子供との交流時間は長い(図表1)。まさに「父親ゴロゴロ問題」である。

働き方を変え、早く家に帰るだけでは足りない。男性がもっと家庭に参画するには、さらなる「後押し」が必要で、その鍵が「男性育休『義務化』」にあるのではないだろうか。

「家にいても役に立たないパパ」を作るのは、子育てという長い事業のスタートアップを夫婦で一緒にきれていない初動に問題があるからだ。

ヒントはフランスの「父親ブートキャンプ」にあり

私が「義務化」という時のイメージは、フランスの「男性と子供の受け入れのための休暇」だ。先日の発足会では、友人のフランス在住ジャーナリスト髙崎順子さんに翻訳してもらった資料「フランス・父親休暇の評価報告」(原本報告書作成者:エルヴェ・ゴスラン、キャロル・ルピーヌ フランス社会政策検査院)を引用して、発言した。

筆者はフランスの事例を紹介

髙崎さんによると「海外では父親の場合も産休(出産直後の休業)と育休(保育園に託さず自宅保育するための休業)を分けて考えている」ということだ。

この報告書は前者の「産休(出産直後の休業)」についてであり、この制度は2002年から導入され、取得対象の父親の7割がとっている。企業が3日、政府が11日間を負担する14日間の休暇だ。別名「父親ブートキャンプ」。半ば強制的に「父親にする」ための休暇である。「母子の入院中に両親を対象に沐浴やオムツ替えなどの指導をする」というほど「教育」も徹底している。

一方、フランスでも後者の「育休」の方は全く普及せず、取得比率は日本と同じぐらい低い。報告書には「子の誕生直後の父親休暇は父子の長期的良好な関係の形成を決定づけるものであり、その効果は思春期まで影響する。フランスにおいては、父親休暇は家庭内での長期的な家事育児分担にもポジティブな影響を与えているとのデータが出ている」とある。

日本での産後の妻の死因の一位は自殺というショッキングなデータもある。フランスの父親育休は「出産直後の心身脆弱な状態に置かれた母親たちにとって、「脆弱な状態で孤立しないこと」を意味し、母子の保健環境の改善につながる」という位置付けでもある。

「父親ゴロゴロ」問題は、産前産後の両親教育と「男女で過ごす子育てスタートアップ」休暇で解決するというエビデンスがすでにフランスにはあるのだ。