想像もしていなかった姑の姿を知る

著者の垣谷美雨はここ数年、『老後の資金がありません』や『夫の墓には入りません』(ともに中公文庫)など、老後の問題をテーマとした作品で話題を集めている作家である。

時には高齢化社会を、時には婚姻制度を、シニア女性の等身大の視点でエンターテインしてきた著者自身も、義母の遺品整理を経験済み。その教訓から、自身も老後に向けて断捨離に余念がないようで、とくに重くてかさばる食器類については積極的に処分を進めていると、あるインタビューで語っている。

風刺の利いた作風だが、その明るい筆致は、人生の晩年に対する憂いを感じさせることはない。本作にしても最終的には、「備えあれば憂いなし」の精神で、気持ちよく終活に臨む心構えを教えてくれるようですらある。これこそが人気の秘訣だろう。

捨てても捨てても終わらない遺品の整理。しかし、その長い道程を行く過程では、思わぬ援軍を得たり、予想もしない姑の姿を知ることとなったり、当初は予想もしなかった出来事が次々と起こる。

それも当然。一個人の長い人生とは、たった1枚のレッテルで表現できるものではなく、遺品の数が示すように、膨大な履歴の集積なのだ。「嫁vs姑」の構図から見えていたものは、おそらくごく一部分にすぎない。読了後には、望登子と共に視野の広がりを実感する読者も多いのではないだろうか。

自身や家族の逝去後を想定する作業を、「縁起でもない」と遠ざけてはいけない。本作が与えてくれる勇気をもって、“そのとき”に備えよう。