実は大盛メニューが食べたい女性の心理

こうした事例を紹介しながら、一方で気になるのは、つくり手側の「女性だから××」という、ある種の思い込み。この意識のままでいると思考停止となり、消費者とのミスマッチが生まれる結果となります。

たとえば「女性=少食(小食)」だと思っていませんか?

カフェや喫茶店を取材すると「女性客を意識したフードメニュー」をよく見かけます。内容は、パスタだったり、五穀米や十六穀米だったり、さまざまですが、気になるのは総じて量が少ないこと。人気カフェの新商品ではこんな声を聞きました。

「新メニューのパスタが出たので、試してみたのですが、量が少なくてお腹が満たされませんでした。もう頼むことはありません」(30代の企画職、50代の営業職)

別々の機会に聞いた、世代も住む場所も違う(30代は東京都、50代は兵庫県)2人の女性が同じ感想を述べたのです。これ以外にも「麺類が人気の外食チェーン店では『大盛りメニューが女性に大人気』」という話を聞きました。ふだんの会食でも、少食という女性はあまり多くはありません。

令和は“しばり”が薄れていく時代

一方で、従来は「女性の領域」と思われてきた世界に、おじさんが進出するのもふつうになりました。同じカフェの事例でいえば「スイーツ」です。「スイーツ男子」と聞くと、まずは若い男性をイメージしそうですが、コーヒーとケーキを楽しむ中高年男性はたくさんいます。もともとそうした意識はあったのでしょうが、それが顕在化してきました。

「男女雇用機会均等法」が施行されたのと同じ1986年、『MEN'S NON-NO』(メンズノンノ)が創刊されました。人気女性誌『non-no』(ノンノ)の男性版で、「ユニセックスの着こなし」なども提唱していました。当時筆者は大学生でしたが、あるスポーツ新聞に「女性ウオッチング」記事を連載しており、この話を紹介したこともあります。

そうした時代の波に洗われた当時の若い男性が、30年たって、おじさんになった一面もあるでしょう。このように整理すると「女性だから××」「男性だから××」が薄れてきたことを感じます。いわば現代は“しばり”が薄れた時代であり、今後もその流れは続くでしょう。

今の消費者は「××だから、それはしない」という先入観を持たない。感覚的に「これは自分に合う」と思ったものを選びます。そこを見誤らないように、定量的なデータや属性ではなく、“個”からニーズを見抜く目を養うことが、ますます必要とされるでしょう。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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