「別れ」の物語から得られる感動と勇気
6年に及ぶ闘病生活に寄り添い、死別から2年もの歳月をかけて書き上げられた本作。その体験から得たものを、物語として昇華したいという思いは、本作の端々から感じられる。しかしそれは決して鬼気迫る感情ではなく、辛苦の時期を乗り越え、そして得たものをわかち合いたいという、あたたかなモチベーションに思える。
この物語を単なる感動譚にくくるのは容易である。湧き出る感情を抑え込むことなく、ひとしきり泣くのもいいだろう。しかし、これから何度でも訪れるであろう悲しい別れに備えて、一抹の勇気を受け取ることができたというのが、筆者の率直な感想だ。
次またあの厳かな儀式の場に身を置くことになったとき、これまでの自分とは違った感情を持つかもしれない。本作は清涼な読後感とともに、そんな気持ちにさせてくれる作品だ。
就活に挫折気味の美空だが、おそらくは大方の読者の期待の通り、漆原とのパートナーシップを経るうちに、葬儀場での仕事を本職にしたいとの意欲を増していく。「あのとき、ああしてあげればよかった」という後悔の念に塗れていた遺族たちが、葬儀を終えた後には、「素晴らしい式でお見送りできた」と晴れやかな顔で語る様子に何度もふれるうち、彼女がこの世界に大きな意義とやりがいを見いだしたのは想像に難くない。
こうなると、発売直後から大反響を得ているという本作だけに、今後の続編展開にも期待が持てるというものだ。冷徹な仕事人間タイプの漆原と、故人の魂に寄り添うことのできる美空のコンビが今後、どのような“ワケあり”葬儀に遭遇し、どのような故人と接するのか。また、明るい僧侶・里見や「坂東会館」の仲間たちが織りなすにぎやかな光景を、もっともっと見ていたい。
「ほどなく、お別れです」。これがじつは新たな出発の言葉でもあることを、ぜひじっくりとかみしめていただきたい。