「安定した本業+複業」がベスト

Dくん:僕は可能な限り出世したいです。社長も、なれるのならなりたい。大学生活ではリーダーシップを取る機会が多くてやりがいを感じていたので、管理職は自分の力が発揮できるんじゃないかと思っています。あと、転職よりも複業に興味がありますね。複数の収入源を持って、色々な所で挑戦したい。

原田:Dくんの就職先は安定していて、終身雇用が次の元号でも成り立ちそうな会社だよね。だから「収入源は会社一本でもいい」という考えもあると思うけど?

Dくん:複業は、自分の好奇心の幅を広げるためにやりたいです。もちろん、ワークライフバランスを大切にしていきたいんですけど、会社と家だけの人生にはしたくない。学生の頃は、大学、部活、バイト、遊び、家事の手伝いなどをこなしていたので、社会人になっても色々なことに携わりたいという気持ちが強いです。

原田:では、どうして今の会社を選んだの? 君が就職した会社は、副業禁止なんだよね?

Dくん:とにかく安定を選んでしまいました。

原田:今の会社で安定を得ながら、副業解禁など新しい動きがあれば理想的、ということかな。

Dくん:はい、まさにそうですね。

原田:今の若者たちは大変不安定な時代を生きてきたので、なるべく安定した会社に入りたい人が多い。安定が就業に関する価値の最上位にあるので、キャリアアップを目的とした転職にもさして興味がなく、本音で言えば、できるだけ安定した会社で居心地良く終身雇用で働きたい。でも、仮にそういう会社に入れたとしても、「副業禁止」には萎えてしまう。「超安定」していて、「副業」や「複業」も容認してくれる「安定」と「自由度」のある会社を理想とする若者が多いんだね。

両立ではなく、出世か家庭かを選ぶ派も

Eさん:私は古いタイプかもしれませんが、出世できるならしてみたいです。でも、将来結婚して子どもができたらそっちに注力したいので、家庭を持ったら仕事を辞めると思います。私の母は専業主婦で、それが理想像なんです。私が今まで出会ったバリキャリの管理職の女性で子どもが2人いる方は、「子どもと遊ぶより仕事のほうがずっと楽しい」と断言していて、それはイタいなと思いました。少なくとも自分はそんな風にはなりたくないと思っています。仕事にのめり込むと、家庭をおろそかにしちゃうのかなって。

原田:昔は、たとえ仕事が楽しくても、女性は子育てを一方的に任される立場だった。今は、様々な選択肢を選べる時代に少しずつなってきている。現実問題として保育園に預けられるかどうかはさておきだけど……。一方で、今の若い女性たちの間で、Eさんのように専業主婦願望が非常に高まってきていることは有名な話だね。やっぱり、君たちの母親世代は、少なくとも大都市部においては、専業主婦率が高い最後の世代だから、自分の母親に憧れているという面もあるでしょう。また、今は子どもがいる女性の7割が働く時代になったから、専業主婦になりたくてもなれなくなっているという現実がある。だからこそ、以前と比べて専業主婦のステイタスが上がっている、ということもあるでしょう。

Eさん:私は、家庭を大事にする女性が素敵に見えます。今のバリキャリの管理職の女性たちは、あまりにそうでなさすぎる女性が多いように思います。でも、私がもしずっと結婚できなかったらバリバリ出世するよう頑張ります(笑)。

原田:今は恋愛や結婚自体がとてもしがたい時代になっている。まして、結婚と仕事の両立はさらに難しくなっている可能性がある。女性の選択肢が広がっているようで、君たち若年女性には大変な時代になっているのかもしれないね

転職せず、ずっと今のところで働きたい

Fさん:私は出世できるならしたいし、お金も稼ぎたい。転職は全く考えてないです。コツコツ頑張って、長く働けたらいいなと思っています。

原田:Fさんの就職先も大変安定した企業。緩く徐々に昇級・昇進していく昭和型の企業だよね。お金を稼ぎたいなら、もっとキャリアアップを目指すとか、ハイリスクハイリターンな会社に就職するという手もあるんじゃない?

Fさん:日本企業らしいところのほうが、私には合っていると思って今の会社を選びました。お金は今以下の生活はしたくないけど、最優先項目ではなくて。もし結婚して共働きになれば、自分で稼ぐ額のおよそ倍の収入で生活ができるようになりますよね。それから、就活がつらかったので、もう転職活動はしたくないというのもあります。

原田:そうか。専業主婦になりたい女子は多いけど、現実問題を考えると「一生共働きでいくしかない」と思っているんだね。確かに共働きなら世帯収入としては増えるから、そこまで自分で稼ぐ「お金」の優先順位を上げなくてよくなっているのかもしれないね。だから、安定や居心地のほうを優先できるのかも。

しかし、こんなに有効求人倍率が高くなっているし、就職氷河期世代の僕らからすると、君たちの就職活動は全く苦しくないはず。でもやっぱり、辛く感じたんだね。お金も第一優先事項ではなくなっているから、たかだがお金のために、もうあんな辛いことをしたくない、という気持ちなんだろうか。

Fさん:就活は本当につらかったです。落ちるときは落ちるし、精神的ストレスや不安が常にありました。

原田:今の時代で不安だったら、他の時代では生きられないと言えるくらい、今は恵まれているんだけど。今の若者たちは、競ったり過度なプレッシャーを感じる場が本当に嫌いになってきているのかも。与えられた裁量権と仕事内容の中で、コツコツ頑張って登っていきたい子が多いようだね。