今月、皆さんの職場に新入社員は入ってきましたか? 彼らは、一体どんな価値観を持っているのでしょうか。この春に大学を卒業して社会人となった男女7人を集めて、仕事について本音で語ってもらいました。司会と解説は、若者の消費動向を追いかけているサイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さん。第2回目は、キャリアプランや出世・転職、について聞いていきます。

第1回 イマドキ新卒は、高給より定時退社を選ぶ
第2回 新卒ほど緩いおじさん上司と働きたいワケ
第3回 イマドキ新卒は、叱り方にも効率を求める

座談会メンバー
Aさん/横浜市立大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Bさん/明治学院大学卒、外資系アパレルメーカーに就職。女性
Cさん/横浜国立大学卒、大手レジャー業界に就職。女性
Dくん/横浜市立大学卒、大手食品メーカーに就職。男性
Eさん/早稲田大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Fさん/青山学院大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Gくん/青山学院大学卒、大手食品メーカーに就職。男性

バリキャリ女性より、ゆるいおじさんの下で働きたい

原田:みんなは、出世したいと思って今の会社に就職した? あるいは、就活中から転職を視野に入れていましたか? 最近は名だたる大企業に入っても、入社したての頃から転職サイトを見る若者が増えている、という話をよく聞くのだけど、どう?

Aさん:今は「一生その会社で働く」って感覚の若者が少ないと思いますが、私の場合は、転職は考えてないですね。今の会社に就職したからには勤め上げたいと思っています。私は関西出身で、もし地元に戻りたいと思った時も辞めなくていいように、関西に異動ができる会社を選びました。業界としても大変安定していますし。

原田:どんな上司が理想かな? 最近は日本全体で女性管理職を増やそうとしているんだけど、女性管理職についてはどう思う?

Aさん:うーん……。就活中に私が出会った女性管理職の方だけかもしれませんが、「男社会を生き抜いてきました!」「私、一人で頑張ってます!」という感じが見受けられる人が多くて、良くも悪くもガッツ感がすごかったです。自分とはタイプが違うし、その方の下で働きたいかと言われると凄く微妙です。それよりも、ちょっと緩いおじさんの下で働きたい。

女性のほうが厳しそうだから。あとは、ワークライフバランスを大事にしてくれる上司がいいです。私、旅行が好きなので、有休を取りやすい会社を探していました。今の会社の説明会で、社員さんに「長期休みは何をしてますか?」って聞いたときに、「モロッコに行きました」と返ってきたので「よし! ちゃんと休めそうだな」と思って。「金曜日に有休を取って台湾に行く」という話も聞きました。ワークライフバランスをモチベーションに繋げられたらと思います。

出世は「程よく」がいい

原田:Aさんは現時点の男社会を生き抜いてきた女性管理職に魅力を感じないという意見だったけど、では、将来君たちが女性管理職になったら、どんなタイプになりたい? 今とは違う女性管理職が生まれるのだろうか?

Aさん:リーダーシップを発揮して引っ張っていくタイプよりも、みんなで頑張れるように指示を出すのが上手い人になりたいです。今は、とにかく一人で頑張って上り詰めた女性管理職が多いような気がします。そういう、人一倍仕事をするタイプではなく、上司も部下も同じ仕事量で、みんなと一緒に頑張れる人がいいかな。

原田:カリスマ型のリーダーではなく、協調型のリーダーになりたいんだね。少年ジャンプで言えば、昭和型の自分だけが強くなっていく北斗の拳や孫悟空タイプではなく、皆で協調して強くなっていくワンピース型だね。今のSNS世代の若者は「調和」を大切にする傾向があるからよくわかります。

 話は違うけど、新元号の「令和」って、ら行で大変発音しにくいんだけど、君らにはぴったりな印象があるね。令はれいからゼロってとることもできる。日本は人口減少社会であり高齢化社会であり、次の元号もGDPが0%成長に近い低成長時代になると思います。そんな「れい」の成長の中で、調「和」を保っていきたいというのは、まさに君ら世代が考えていることに近いのではないだろうか。さて、他の人はどう?

Bさん:程よく出世したいけど、そこまで上は目指したくないです。安定は求めたいけど、過度な責任は取りたくないし、仕事がすべての人にもなりたくない。ワークライフバランスを大事にしたいです。

原田:出世したくないのも、今の若者たちの特徴ですね。偉くなるだけ偉くなりたい、目立てるだけ目立ちたい、というのはかつての若者像だったけど、今はそんなことを求める若者は超少数派になっていますね。それにしても、この連載で「ワークライフバランス」って言葉が何度出てきているだろう……。

Cさん:私は転職を考えてなくはないです。他にやりたいことができたり、今の会社で「違うな」と思うことがあったりしたら、転職をする可能性は大いにあります。でも、出世はあまり考えていません。管理職になったら、マネジメントや指導育成、進捗管理、決断を下すだけとか、管理業務しかできないイメージがあります。今はそういうことに興味がなくて、ずっとプレイヤーでいたい。後輩と友達関係になれる、いい先輩になりたいとは思います。

原田:2025年になると日本人で最も人口ボリュームが多い団塊世代が後期高齢者になる。その時までに第二の人口ボリュームがある「団塊ジュニア」(1971年生まれ~74年生まれ)を中心とした社会に日本はなります。団塊ジュニア近辺の人たちは、人口が多く、それでいて就職氷河期世代でもあり、人生を競争に捧げてきた人で、ワークライフバランスを重視する人も下の世代より少ない。後輩と友達関係になるのが君たち世代に比べると大変苦手な世代だと思います。きっと君たちがまず直面する課題は、この昭和最後のガツガツ世代の団塊ジュニア群の上司とどう付き合うか、ということになると僕は予測しています。

「安定した本業+複業」がベスト

Dくん:僕は可能な限り出世したいです。社長も、なれるのならなりたい。大学生活ではリーダーシップを取る機会が多くてやりがいを感じていたので、管理職は自分の力が発揮できるんじゃないかと思っています。あと、転職よりも複業に興味がありますね。複数の収入源を持って、色々な所で挑戦したい。

原田:Dくんの就職先は安定していて、終身雇用が次の元号でも成り立ちそうな会社だよね。だから「収入源は会社一本でもいい」という考えもあると思うけど?

Dくん:複業は、自分の好奇心の幅を広げるためにやりたいです。もちろん、ワークライフバランスを大切にしていきたいんですけど、会社と家だけの人生にはしたくない。学生の頃は、大学、部活、バイト、遊び、家事の手伝いなどをこなしていたので、社会人になっても色々なことに携わりたいという気持ちが強いです。

原田:では、どうして今の会社を選んだの? 君が就職した会社は、副業禁止なんだよね?

Dくん:とにかく安定を選んでしまいました。

原田:今の会社で安定を得ながら、副業解禁など新しい動きがあれば理想的、ということかな。

Dくん:はい、まさにそうですね。

原田:今の若者たちは大変不安定な時代を生きてきたので、なるべく安定した会社に入りたい人が多い。安定が就業に関する価値の最上位にあるので、キャリアアップを目的とした転職にもさして興味がなく、本音で言えば、できるだけ安定した会社で居心地良く終身雇用で働きたい。でも、仮にそういう会社に入れたとしても、「副業禁止」には萎えてしまう。「超安定」していて、「副業」や「複業」も容認してくれる「安定」と「自由度」のある会社を理想とする若者が多いんだね。

両立ではなく、出世か家庭かを選ぶ派も

Eさん:私は古いタイプかもしれませんが、出世できるならしてみたいです。でも、将来結婚して子どもができたらそっちに注力したいので、家庭を持ったら仕事を辞めると思います。私の母は専業主婦で、それが理想像なんです。私が今まで出会ったバリキャリの管理職の女性で子どもが2人いる方は、「子どもと遊ぶより仕事のほうがずっと楽しい」と断言していて、それはイタいなと思いました。少なくとも自分はそんな風にはなりたくないと思っています。仕事にのめり込むと、家庭をおろそかにしちゃうのかなって。

原田:昔は、たとえ仕事が楽しくても、女性は子育てを一方的に任される立場だった。今は、様々な選択肢を選べる時代に少しずつなってきている。現実問題として保育園に預けられるかどうかはさておきだけど……。一方で、今の若い女性たちの間で、Eさんのように専業主婦願望が非常に高まってきていることは有名な話だね。やっぱり、君たちの母親世代は、少なくとも大都市部においては、専業主婦率が高い最後の世代だから、自分の母親に憧れているという面もあるでしょう。また、今は子どもがいる女性の7割が働く時代になったから、専業主婦になりたくてもなれなくなっているという現実がある。だからこそ、以前と比べて専業主婦のステイタスが上がっている、ということもあるでしょう。

Eさん:私は、家庭を大事にする女性が素敵に見えます。今のバリキャリの管理職の女性たちは、あまりにそうでなさすぎる女性が多いように思います。でも、私がもしずっと結婚できなかったらバリバリ出世するよう頑張ります(笑)。

原田:今は恋愛や結婚自体がとてもしがたい時代になっている。まして、結婚と仕事の両立はさらに難しくなっている可能性がある。女性の選択肢が広がっているようで、君たち若年女性には大変な時代になっているのかもしれないね

転職せず、ずっと今のところで働きたい

Fさん:私は出世できるならしたいし、お金も稼ぎたい。転職は全く考えてないです。コツコツ頑張って、長く働けたらいいなと思っています。

原田:Fさんの就職先も大変安定した企業。緩く徐々に昇級・昇進していく昭和型の企業だよね。お金を稼ぎたいなら、もっとキャリアアップを目指すとか、ハイリスクハイリターンな会社に就職するという手もあるんじゃない?

Fさん:日本企業らしいところのほうが、私には合っていると思って今の会社を選びました。お金は今以下の生活はしたくないけど、最優先項目ではなくて。もし結婚して共働きになれば、自分で稼ぐ額のおよそ倍の収入で生活ができるようになりますよね。それから、就活がつらかったので、もう転職活動はしたくないというのもあります。

原田:そうか。専業主婦になりたい女子は多いけど、現実問題を考えると「一生共働きでいくしかない」と思っているんだね。確かに共働きなら世帯収入としては増えるから、そこまで自分で稼ぐ「お金」の優先順位を上げなくてよくなっているのかもしれないね。だから、安定や居心地のほうを優先できるのかも。

しかし、こんなに有効求人倍率が高くなっているし、就職氷河期世代の僕らからすると、君たちの就職活動は全く苦しくないはず。でもやっぱり、辛く感じたんだね。お金も第一優先事項ではなくなっているから、たかだがお金のために、もうあんな辛いことをしたくない、という気持ちなんだろうか。

Fさん:就活は本当につらかったです。落ちるときは落ちるし、精神的ストレスや不安が常にありました。

原田:今の時代で不安だったら、他の時代では生きられないと言えるくらい、今は恵まれているんだけど。今の若者たちは、競ったり過度なプレッシャーを感じる場が本当に嫌いになってきているのかも。与えられた裁量権と仕事内容の中で、コツコツ頑張って登っていきたい子が多いようだね。

ワークライフバランスのためにドイツに転職したい

Gくん:僕、実は将来の転職を視野に入れて就職をしました。ワークライフバランスを最も重視して就活をしていましたが、日本の企業ってその環境がまだまだ整ってないんです。だから、今の会社で経験を積んで、いずれはワークライフバランスを重視した海外の企業に転職します。

原田:Gくんの会社は、1回目の記事「イマドキ新卒は、高給より定時退社を選ぶ」でも話してくれたように、基本的には定時で帰れて、遅くても7時には仕事が終わるんだよね。僕からすると、十分にワークライフバランスがとれているように思えるけど、それでもまだ足りないんだ? それにしても、キャリアアップを目的とした転職を目指すのではなく、ワークライフバランスが得られる会社に転職することを目的に第一就職先を決めるって、確かに昔ではあまりなかった選択かもしれないなあ。でも、まあ、現段階では最良の選択ができたわけだね。

Gくん:僕は今、恋人がいるんですが、恋人ともワークライフバランスについての話をよくします。

原田:恋人同士でワークライフバランスのピロートーク(笑)。今っぽい!

Gくん:色んな国の企業情報を二人で見て、今のところドイツ企業が最もワークライフバランスが整っていそうだと考えています。僕は、どんなに楽しい仕事に巡り合ったとしても、プライベートのほうが絶対に大事です。会社の飲み会があってもできれば飲まずに帰りたいですし……。日本企業は「残業をして時間をかければ良いものができる」みたいな古い考え方を持っているところが多いと思うのですが、それよりも効率的に動いたほうがよくないですか?

やりがいのある仕事を振ってもダメ

原田:ワークライフバランスを求めてドイツに行きたい子が出てきたんだ(笑)。いわゆる「若者の海外離れ」が、ワークライフバランスという概念によってなくなるかもしれないね(笑)。

でも確かに、僕は世界中で若者研究をしているけれど、君のような考え方のほうがグローバルスタンダードに近い。日本のバブル世代や団塊ジュニア世代の上司は、自分たち世代と今の若手社員の労働観をただ時系列で比較して若者はダメになったと嘆くのではなく、グローバル視点を取り入れていかないとダメだね。

でないと、今の超売り手市場の若者たちを採用したり、彼らの転職を防止したりもできないかもしれないね。これから日本にもっともっと移民が増えていくだろうし、上司は日本の若者を見ても、移民の若者を見ても、よりグローバルな視点が必要になってくるでしょう。

ちなみに、先程から、想定以上に「出世したい」と言う子が多くてびっくりしているんだけど、定量データで見ても「社長になりたい」というより「部長・課長程度にはなりたい」という考えを持つ若者が増えているようです。

出世については、日本生産性本部の調査があります。今の70代ぐらいの団塊世代は、社長になりたいと答える人が新入社員の時点で多かった。それより下の世代になると、社長願望はどんどん減っていって、団塊ジュニアと呼ばれる40代ぐらいからは、専門職になりたいという人が新入社員の時に増えた。彼らは就職氷河期を経験しているから、会社が潰れても生きていけるスキルを身に付けたかったんだと思います。僕が20年近く若者研究という専門職を続けているのも、まさに団塊ジュニア群の象徴かもしれない。

そこからまた、今の30代前後になると専門職になりたいと回答する新入社員の数値はどんどん下がっていって、管理職になりたいと回答する人が増えていった。社長にはなりたくないけど、課長にはなりたい。団塊世代は漫画『課長 島耕作』のように課長がスタートラインでしたが、今では課長がゴールになっています。

「ほどほどがいい」「課長がいい」理由

原田:課長になりたいって若者が増えているんだけど、実際は中間管理職が一番つらいという説があります。理由は、上にも下にも気を遣わないといけないから。でも、今の若者からすると、中間管理職の悲哀をまだ現実的に想像できないため、上とも下ともバランスよく付き合えて、社長ほど責任が重くないという程よいポジションに見えている。だから、課長になりたいってことなんだと思います。

さて次回は、理想の上司について皆さんに聞いていこうと思います。