めんどうくさい洗剤VSめんどうくさくない洗剤

昭和の高度成長期に、それまでの洗濯石鹸(固体)に代わり、衣料用洗剤の王座についた粉末洗剤ですが、平成時代の後半から「洗濯後に溶け残る」という声が、メーカーのお客様相談センターなどに寄せられるケースが増えました。ただし、どうやら商品の問題とは言えない場合も。すべてがそうとは言いませんが、消費者に使用シーンを聞くと、「洗濯容量を超えた衣料の押し込み」も多かったのです。

男性も女性も外で働くことが一般的となって、みんなが忙しくなりました。洗濯を行う人が「1日に2回も洗濯機を回す時間がもったいない。できればまとめて洗いたい」あるいは「毎日ではなく2日に1回ですませたい」と洗濯物を押し込んだ結果、「圧迫された衣料と衣料の間に粉末洗剤が入り込み、洗濯を終えても溶けなかった」ケースも目立ったのです。

溶け残れば、そこだけ水洗いして乾燥機に入れたり、干したりしなければなりません。でも液体なら、そうしたリスクはほぼない。つまり、ここでも「めんどうくさい」がキーワードなのです。

「ジェルボール洗剤」大ブレイクの理由

液体でも粉末でもない第3のタイプの洗剤、たとえば錠剤タイプなどは、これまでも各メーカーが開発してきました。

P&Gは2014年、同社の看板ブランド「アリエール」「ボールド」にジェルボールタイプと呼ぶ洗剤を発売。グミのような触感、鮮やかな色味もウケて、大ヒットとなったのです。

ジェルボールは、特に洗濯物が多い場合に向きます。色味が楽しめるなど別の付加価値もありますが、基本は、液体や粉末洗剤のように「計量しなくていい」。つまり「めんどうくさくない商品」なのです。「時短」ということでは、計量にかかる時間はほんの数秒でしょうが、「めんどうくさい」の解決に訴求したことは大きかったのです。

めんどうくさくない商品は、さまざまな分野から出ています。たとえば1本の中にコーヒー粉末やミルクが入った「スティックタイプのコーヒー」もそうですね。以前はなかった「72本入り」などもあります。必ずしも業務用として買うのではなく、それだけ需要が拡大した証拠と言えるでしょう。

このように「時短」の裏に潜む消費者の心理「めんどうくさい」の視点で考えたほうが、発想が広がりませんか? 企画を考える場合、よく使う表現を少しひねって考えることがおススメです。

高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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