アメリカ・シリコンバレーは、IT企業がひしめくエリア。現地で活躍する3人の女性たちの自宅や会社にお邪魔して、今までに読んで衝撃を受けた本、そして現在の読書習慣をインタビュー。

いつもそばにある美術評論家の本

サンフランシスコを拠点に活動している現代芸術家のクラリ・リースさん。マイクロソフト社のケンブリッジ研究所や、ザ・ペニンシュラ上海、モルガン・スタンレー本社など、彼女の作品は、世界中の建築に設置されている。彼女が芸術家を志すきっかけになった本が、近代美術評論家ロバート・ヒューズ氏の『THE SHOCK OF THE NEW』だ。カリフォルニア大学在学中、ヒューズ氏の講義を受ける際に購入。あまりに面白くて、講義を待たずにページをめくった学生時代を思い出す。

現代芸術家 クラリ・リース(KLARI REIS)

「近代美術作品をひとつひとつ情熱的かつユーモアたっぷりに解説していて、すっかり近代美術に魅せられました。それまでは、芸術を仕事にしたいという願望はあったものの、生計を立てられるのか不安もありました。でも、この本を見て、自分が作った作品で世界の人たちを楽しい気持ちにさせたいと、芸術の道を歩む決意をしたのです」

それ以来この本はずっと身近に置き、制作に行き詰まったときや、新しい作品に挑むときなど、ことあるごとに読み返すという。

現在は夫と2歳の息子との3人暮らし。サンフランシスコのソマ地区に、6年かけて建てたギャラリー兼アトリエ兼自宅には、四方を本に囲まれた書斎がある。家族そろって本好きのリース一家は、毎晩ここで本を読むのが家族団らんのひととき。

「映画を見るために大きなテレビも置いてありますが、いまだにスイッチを入れたことはありません(笑)」

小説やノンフィクションなど、あらゆるジャンルの本を読むクラリさん。息子が生まれてからは、絵本や児童書を一緒に読むようになった。お気に入りは、『この世界いっぱい』だ。「世界のすべては繋(つな)がっている」「晴れの日もあれば雨の日もある」といったシンプルで力強いメッセージは大人の心にも響く。すでに何冊も買って友人にプレゼント。「初めて読んだとき、感動で涙ぐんでしまいました。カリフォルニアの大自然を思わせるイラストも心地よく、絵本の魅力を再発見しました」

創作のために意識して本を読むことはないというが「どんな本からも、気付かないうちにインスピレーションを受けていると思います」。

(写真左)左/旅先で訪れた美術館の図録は必ず持ち帰り、創作の参考に。右/芸術家を志すきっかけになった一冊。(写真中)自宅の2階にあるリビングには、自身の作品をはじめ、お気に入りのアートが飾られている。天井のイタリア車(フィアット)は、カプリ島で結婚式を挙げた思い出として。(写真右)書斎では1日10冊ほど息子に読み聞かせをする。