「新しいものを生み出す」。将来の夢が明確に

アニー・フーさんが起業するきっかけになった本が、ピーター・ティール氏の『ゼロ・トゥー・ワン』。大学を卒業後に入社したナスダックを退職し、経営学修士取得のために、シカゴ大学のビジネススクールで学んでいるときに読んだ。何かをコピーするのではなく、ゼロから1、つまり全く新しいものを作り出すことの重要性を説いたこの本に大きな衝撃を受け、「大企業で昇進を目指すのではなく、新しい分野で起業したい」と思うようになった。

オムニファイCEO アニー・フー(ANNIE HUE)

選んだ場所は、ティール氏の拠点でもあるシリコンバレー。起業準備の際には、全米で経営者の必読書といわれているビジネス書を読みあさった。そのなかで、特に印象に残って今でも読み返す本がある。そのひとつが『ハード・シングス』。著者のベン・ホロウィッツ氏が朗読するオーディオブックで聴いた。

「本人の声で聴いたので“教訓”がよりダイレクトに伝わってきました。私たちのベンチャーが成長する過程で、この本のテーマである『何事も計画通りにはいかない』という教訓を、忘れないように心がけています」。もう一冊、『シリコンバレーの交渉術』は、投資家がビジネスを進めるうえでのコミュニケーションのコツを紹介。資金調達の交渉時に役立ったそう。「新しいアイデアを売り込むときは、“分析する脳”ではなく、“直感的にエキサイトする脳”に訴えかけることが効果的だということを、この本から学びました」

アニーさんの会社オムニファイは、タイムズスクエアのような繁華街を飾る広告掲示板で、エンゲージメント(※1)を可視化するという、未開発の広告領域。最先端の視覚技術を駆使し、膨大なデータをリアルタイムで処理して広告主に提供するベンチャーだ。夢をかなえた今も、常にアンテナを張ってゼロから1を生み出すためのチャンスをうかがう。

多忙を極める毎日だが、スキマ時間や就寝前の読書は欠かさない。読書の習慣は、大学教授だった祖父と一緒に『三国志』などの歴史小説を読んだ小学生の頃に身につけた。現在は立ち上げたベンチャーに専念しているので、読書は短時間で一気読みすることが多い。紙の本を手にとって読むのが好きだが、移動時間を活用するため電子書籍も愛用している。「本を読んでいる間はほかのことを考えなくていいので、ストレス解消にもなるんです」

ITの最先端に身を置く今も、本のない生活は考えられないようだ。

※1 企業や商品、ブランドに対してユーザーが愛着を持っている状態。つながりの強さ。

(写真左)左/ナスダック時代、女性初のCEOアディナ・フリードマン氏からプレゼント。右/学生時代衝撃を受けた本。(写真右)勤務先はシリコンバレーのシェアオフィス。ラウンジや屋外のフリースペースが豊富にあり、社外の人との交流に活用している。移動中の読書は薄型で軽量のKindleを愛用。