「以前は人事評価のとき以外は一切やらなかった。ワンオンワンと並行して部下を10人ぐらいに分けて招集するミーティングを増やしました。おかげで部下が仕事以外も含めてどんな状態にあるかを知ることができ、コミュニケーションをとる効果が大きいことも理解できた」(梅原さん)

佐藤さんも最初は膨大な書類のPDF化作業に追われた。老眼のせいもあり、ノートパソコンではエクセル分析もきついため、モニター席を確保できるよう出社時間を調整した。

「固定席時代はアシスタントが近くにいたので簡単なコピーやFAXは瞬時にやってもらえたが、今はどこに座っているのかわからない。最初は探し回りましたが、探すことに3~4分費やすはめになる。簡単な作業は自分でやったほうが早いと気づきました。ABWに慣れるのに3カ月はかかった」(佐藤さん)

今では紙の資料を出されると「ちょっとイラッとするほど慣れた」と笑う。

社員がオフィス環境に順応するにつれ、次第に目に見える成果も表れ始めた。オフィスがメディアでも取り上げられ、見学者は3万人を超えた。さらにリクルート効果では大きな威力を発揮。新卒採用数は毎年増えているが、オフィス環境が入社を決めた理由の1つと答えた学生が8割を超え、内定辞退率も大幅に減少した。18年4月に入社した宮田光さんは「メーカー志望でしたが、会社説明会やインターンシップに参加し、ここで働きたいと思いました。ABWが入社を決めた理由の70%を占めている」と語る。

同じく新人の古庄花梨さんは「もともと美しく快適な空間に興味があり、そういうものを創造する仕事に携わってみたいと考えていました。自らそうした空間をつくり上げている会社であれば、私がやりたい仕事もできるのではと志望度も上がった」という。現在入社後のOJT(職場内訓練)中だが、同じく18年4月入社の新人・瀬島咲希さんは「自分でスケジュールを管理するなど自己管理が重視され、自分のペースで席を使い分けて仕事ができるのが魅力です。帰宅時も上司の目を気にすることがなく、後ろ髪を引かれずに帰れます(笑)」と語る。

リクルート効果も優秀な人材獲得という点では生産性につながるが、社員を対象とした意識調査でも、「現在のオフィスが自分の健康やハピネスに良い影響をもたらしていると感じている」社員が、導入時の59%から3年後は84%に増加。従業員の70%が「自分と同じ部署や他部署の同僚と容易にコラボレーションできる機会が増えている」と回答。実際にコラボレーション案件数も以前のオフィス時代に比べて3倍に増えているという。もちろん会社全体の売上額も約3倍に伸び、確実に生産性は向上している。