自身いわく「もともと石橋をたたいて渡る慎重な性格」で大きな失敗をした経験はない。男性社会の中で修羅場はたくさん経験してきたものの「仕事に性別は関係ない」「女性だからといって特別扱いされたくない」と、人一倍、全力投球してきた。性別よりも「1人のプロでありたい」という強い思いがあり「専門性を追求し続ける完璧主義者。肩肘を張って生きていました」と語る。

(上)事業調査部では専門性を身に付けようと、昼夜問わず働く(中)仕事に脂が乗ってきた。茶道を始めたり、バイオリンを再開するなどプライベートも充実(下)部を移ると一から関係性構築が必要。平たんな道のりではないが、やりがいあり

だが、自分の理想とする生き方が貫けない苦難の時期に突入する。自分が思い描く理想と現実とのギャップに悩み、「完璧でありたい」と思いつつも、そうではない自分に対する葛藤があった。誰かに責められるというよりも、自分で自分を責めているような息苦しい日々が続いた。

新たなマネジメント、スタイルを編み出す

そんな寄高さんに2度の転機が訪れる。1度目は45歳くらいのとき。管理職研修で、経営者でありエッセイストの黒川伊保子さんによる「男女脳」に関する講演を聞き、目からウロコが落ちた。それまで寄高さん自身は、どちらかというと男性的な考え方をするとばかり思っていたが、「私はやっぱり女性の脳だったのか、とわかって。これまで感じていた息苦しさの原因は女性脳を封印していたことにあったのではないかと思い、ふっと肩の力が抜けました」。

どんな企業にいても女性は女性であり、男性脳との違いを認め合えれば最強になれる。察する能力や、臨機応変に対応できる能力など、もっと女性脳の特徴を活かせば、今までにない仕事ができるのではないか。そのことに初めて気づかされた。これがきっかけで、法人営業部長として「今まで誰もやらなかったね」と言われるくらい違うアプローチでお客さまとの関係を構築することができ、出入り禁止になっていたお客さまとの取引を再開するなど、組織の“伸び代”にもつながった。

「もし自分が従来通り男性のやり方で部長をやっていたら、しょせん、男性のまねなので、80%の力しか発揮できなかったかもしれない。でも、違うやり方でやったからこそ、男性では開拓できなかったマーケットを開拓することができたのだと思います」