人に流されない。聞くべきは「自分の心の声」

NYでキャスターやジャーナリストとして働いて、実は30代後半でうつ病になりました。母親との関係に確執があった私には、もともとうつの傾向があったようなのですが、まったく自覚がなかったんです。ところが、抗うつ剤の取材をしたことがきっかけで自分の症状に気づき、ドカンと気持ちが落ちました。

(上)『深夜特急』〈1〉~〈6〉 沢木耕太郎(新潮文庫/460~489円)、(下)『The Artist's Way─a Spiritual Path to Higher Creativity』Paperback-1992 ジュリア・キャメロン(Tarcher Perigee/古書にて入手可能)

そんなとき、お世話になったカウンセラーから薦められた本が『The Artist’sWay』(日本語訳『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』)でした。クリエーティブな仕事をしている人が創造性を上げる方法を紹介している本で、たとえば小説やエッセイを書いている人たちが、行き詰まって書けなくなる「ライターズ・ブロック」という現象をどう取り除くかという視点で書かれています。

12週間のワーク形式になっていて、最初に出てくるのが「モーニング・ページ」という課題。朝起きたら30分間、ノートに向かってひたすら思い浮かんだことを書き、3ページ埋めます。何も浮かばなければ「思い浮かばない」と書く。そうすると、頭の中のモヤモヤや悩み、どうしていいかわからない選択の答えが、不思議と見えてくるんです。

私たちは、どんなことでも自分の中に答えを持っています。人にアドバイスを仰いでも、最後に判断を下すのは自分です。映画を撮っていると、いろんな方からネガティブなことも言われます。それは私が「本気でこれをやる気があるのか?」を問う「試し」だと思っています。人の意見はもちろん聞くし、参考になるお話もたくさんありますが、ほかの人の話に流されて言うとおりにし始めたときに、不幸が始まります。聞くべきなのは、自分の心の声です。モーニング・ページなどで心の声とつながる練習をしていると、答えが見つかりやすくなるし、「どんなに行き詰まっても乗り越えてきた」という経験を積み重ねることで、自信につながっていきます。

▼Recommended MOVIE
『善き人のためのソナタ』
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
2006年・ドイツ
旧東ドイツの監視体制を描いたドラマ。「秘密警察の男が盗聴相手の芸術家に次第に共鳴していくのですが、男女愛や夫婦愛を超えて『こんな強烈な愛情があるのか』というショックを受け、見た後に立ち上がることができなかった作品です」
佐々木芽生
映画監督
札幌市生まれ。1987年よりNY在住。フリーのジャーナリストを経て、NHKアメリカ総局勤務。独立後は報道番組の制作に携わる。『ハーブ&ドロシー』は世界の映画祭で多数の受賞を果たし、東京でもロングラン上映を記録した。

構成=新田理恵 撮影=佐々木 康、曾田 園