毎日完売の理由

余計なものを入れず、小豆と砂糖でつくられた上品な粒あんに、香ばしくてほんのりほろ苦い皮の絶妙なコンビネーション。変わらぬこの味あればこそ、贔屓にしてくれる客がたくさんいる。空也の人気に目をつけた百貨店などから、引き合いも数えきれないほどあったそうだ。

「期間限定でデパート販売をしたこともありましたが、うちの商品を気に入ってくださったお客様が再度来店しても、そこにいつもうちの最中があるわけではありません。それは違う、と思い、やめました」

通信販売もしない。最中は常温で1週間ほど日持ちするので、やろうと思えば可能だが、客一人ひとりの顔を見ながら手渡しで売ることにこだわる。商売っ気がないと周囲から言われることもあるが、「毎日、ここでつくれる分だけつくる。それ以上は無理をしない」というのが山口さんの信念だ。そんなかたい意思の裏には、「家族が食べていければそれでいいのです」という、ささやかで切実な想いがあった。

1日につくる最中の数は、7000~8000個。ほぼ毎日、予約分で売り切れてしまう。だからほぼ毎日、朝10時の開店と同時に「本日分は売り切れました」の貼り紙が店の外に貼られることになる。運よく予約なしで購入できる日もあるそうだが、それもお昼前後には売り切れてしまうそうだ。じつにロスがない。味を守り、手を広げずにやってきた山口さんの「無理をしない」結果が、「無駄がない」につながったのだろう。

風情ある店内で客をもてなす

店内には、菓子を並べるショーケースが存在しない。レジの横に季節の和菓子の見本が置いてあるほかは、畳2畳分ほどのスペースに予約分の最中を詰めた袋が所狭しと並んでいるだけだ。一見、無味乾燥な印象を受けるが、店の一角に床の間がある。

店は銀座並木通り沿いに佇む

「狭い店内ですが、お客様に楽しみを持っていらしていただきたいと思い、季節ごとの掛け軸と花を飾っております」

茶道が趣味だったという山口さんらしい、風情あるもてなしだ。差し上げる相手がお茶や骨董好きであれば話の種になるので、来店の折にはぜひとも鑑賞してほしい。

なお、予約は1週間前までに済ませておくのが賢明だ。最中の日持ちは1週間ほど。購入したその日もいいが、2,3日経つと皮とあんこがしっくり馴染んで、一層おいしい。5日目が一番うまい、というファンもいる。贈る相手に、「味の変化を楽しんでください」とひと言添えて手渡すといいだろう。

▼店データ
「空也」
東京都中央区銀座6-7-19
電話 03-3571-3304
【商品】最中
【価格】110円(税込)
【販売】10個から販売で、箱代別途必要。電話で要予約。
【日持ち】1週間
【営業】10時~17時。土曜は~16時。日曜、祝日定休。
(撮影=岡山寛司)