目を閉じて効果的に、気持ちを演出

1対多人数のときにこそ使える演出をもうひとつご紹介しましょう。視線を向けるときにあえて“目を閉じる”という方法です。ふつう話し手は、前を向いて目を開けて話すはずです。そこであえて目を閉じることが効果的な場面が2つあります。

ひとつは悲しい場面。お悔やみを伝えるときや、お詫びをするときなどです。「~に対して誠に申し訳ない」の“誠に”で目を閉じます。ふだんよりも、あえて長い時間目を閉じることで、申し訳ない気持ちを効果的に伝えることができます。

もうひとつは強調したい場面。例えば「とっても嬉しい」「とっても緊張しています」の“とっても”のところで目を閉じます。“とても”ぐらいでやるとわざとらしいので、“とっても”のときにだけ使いましょう。英語で言うところの“very”です。“っ”と促音が入るぐらい強調したいときに目をキュッとつぶるのは、女性だからできる表現です。目をキュッとつぶることで“心がこもっている”ことを伝えることができます。

ただし、1度目を閉じて開けると、みんなが自分を見ていますから、心理的に負荷がかかります。リスキーな方法ではありますが、心から訴えて情熱的に話しているというふうに伝わります。

プレゼンテーションでは縁なしの眼鏡がおすすめ

ここで注意点です。これまで申し上げた視線の効果が半減するのが、眼鏡をかけている場合です。眼鏡をかけていると、どうしても相手は目そのものよりも先に眼鏡の方に意識がいってしまいます。特徴のある、インパクトの強いものであるほど、そちらに気をとられてしまいます。ですから、目力を表現したいのに視力が悪くて眼鏡が必要という人には、プレゼンテーションでは縁なしの眼鏡がおすすめです。

反対に、あがり症で話すときに視線をみんなに送るなんて無理という人は、眼鏡はカムフラージュに使えます。眼鏡をかけていれば、緊張のために目が泳いでいるのも目立たないですし、顔がこわばっているのも隠せます。目が悪くない人もあがり症であれば、緊張対策にだて眼鏡をかけるとよいですね。

“目は口ほどに物を言う”という言葉もあります。お伝えしたいろいろな方法を試しながら、自分に合ったアイコンタクトの方法を見つけてくださいね。

矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。長崎大学准教授。NHKキャスター歴17年。心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し博士号取得。政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。著書にベストセラー多数。

構成=池田純子 イラスト=米山夏子 写真=iStock.com