視線の止まる場所をつくらなければいけない

プレゼンテーションのような1対多人数で話すときの視線について考えます。こうした場面で多いご質問が「どこを見て話せばいいですか」「全体を見ながら話したほうがいいですよね」というもの。

しかし、全員に話しかけようとするあまり、絶えず全員を見ようとするアイコンタクトになることも。これを私は“扇風機の首振り”と呼んでいます(笑)。首振りモードのように、顔と首が右から左に絶えず動いていて、落ち着きがない状態のことです。首を横に振って全体を見ようとするのはいいのですが、止まる場面もつくらなければ、きょときょとして落ち着きのない感じに見えてしまいます。

では、どこで止めればよいのでしょうか。それは“句点”。一文が終わったときに、次の方向に視線を送るということです。

イラスト=米山夏子

会場のタイプによって、視線の向け方を変える

例えば会場が横長の場合。はじめに中央の列の人に視線を向けます。一文が終わったら、次は右の列の人。また一文が終わったら左の列の人と、視線を“ビーム光線”のように列ごとに送ります。視線は放射線状に送り、横にずらさないということです。

縦長の会場の場合は、どうしたらよいでしょうか。“ビーム光線”を送る順番が変わります。(1)後ろ(2)中(3)前です。つまり、話し始めは一番奥の列の人たちを見る。それからだんだんと前に移る。こうすることで、一番目が合いにくい後ろの列まで視線を向けていることが伝わります。

人前で話すときに前の人とばかり目が合っていると、後ろに座っている人たちは不満を持ちます。後ろまで気を配ってくれないと、とり残されたようになるからです。さらに、もしあなたがリーダーになることを狙っているなら、なおさら、遠くのほうから先に見たほうが自分のスケール感を印象づけることになると知っておいてください。

正方形の会場の場合では、まず中央の列の後ろ→中→前、次に右の列の後ろ→中→前、最後に左の列の後ろ→中→前と、縦と横の法則を組み合わせます。とにかく横に視線を移動させないこと。“ビーム光線”でしゃべるのがポイントです。

文末に「つまり」「なぜならば」を残す

さらに視線を変える際、相手を話に引きつける、とっておきの方法があります。文末に「つまり」「なぜならば」を残すやり方です。

例えば「なぜこれが問題なのでしょうか。なぜならば」と接続詞まで同じ列を見ます。その後、間をとってから次の列に視線を向けます。こうすると視線を向けられた列の人はもちろん、途中で視線をうばわれた列の人たちも、ぐっと話に引きつけられます。次の話が気になってしまい注目するのです。ただし、これは変化球の高等テクニック。まずは句点で次の列に視線を移す、という初級テクニックからマスターしましょう。

写真=iStock.com/skynesher

視線を向けるときは目力が必須です。ただ見ているだけでは効果が半減。目力のあるアイコンタクトをするためには疑問を持って見るようにするのがおすすめです。

答えを探しているときのヒトの目はすごく目力があります。自然と聞き手を引きつけることができます。例えば、視線を向けたいところ、つまりしっかりと視線を届けたい列や場所に、よく顔を知っている人に座ってもらいましょう。そして「知っている人はどこにいるかな?」と疑問を持ちながら視線を向けます。そうすると「あっ、ここに○○さんがいた」と目がいきやすいですし、その人に話を聞きながらうなずいてもらえば、話しているこちらも励まされます。

もし知っている人を用意できないときは「今日は何歳ぐらいの人が来ているのかな」「女性は何人ぐらいいるのかな」と疑問を持ちながら参加者の顔を見回しましょう。「ネクタイをしている人は?」「眼鏡をかけている人は?」などの疑問も効果的です。

疑問を持って話す方法は、答えを探すほうにも気持ちがいくので、緊張が和らぐという利点もあります。プレゼンの前に、自分のオリジナルの疑問をつくっておきましょう。

目を閉じて効果的に、気持ちを演出

1対多人数のときにこそ使える演出をもうひとつご紹介しましょう。視線を向けるときにあえて“目を閉じる”という方法です。ふつう話し手は、前を向いて目を開けて話すはずです。そこであえて目を閉じることが効果的な場面が2つあります。

ひとつは悲しい場面。お悔やみを伝えるときや、お詫びをするときなどです。「~に対して誠に申し訳ない」の“誠に”で目を閉じます。ふだんよりも、あえて長い時間目を閉じることで、申し訳ない気持ちを効果的に伝えることができます。

もうひとつは強調したい場面。例えば「とっても嬉しい」「とっても緊張しています」の“とっても”のところで目を閉じます。“とても”ぐらいでやるとわざとらしいので、“とっても”のときにだけ使いましょう。英語で言うところの“very”です。“っ”と促音が入るぐらい強調したいときに目をキュッとつぶるのは、女性だからできる表現です。目をキュッとつぶることで“心がこもっている”ことを伝えることができます。

ただし、1度目を閉じて開けると、みんなが自分を見ていますから、心理的に負荷がかかります。リスキーな方法ではありますが、心から訴えて情熱的に話しているというふうに伝わります。

プレゼンテーションでは縁なしの眼鏡がおすすめ

ここで注意点です。これまで申し上げた視線の効果が半減するのが、眼鏡をかけている場合です。眼鏡をかけていると、どうしても相手は目そのものよりも先に眼鏡の方に意識がいってしまいます。特徴のある、インパクトの強いものであるほど、そちらに気をとられてしまいます。ですから、目力を表現したいのに視力が悪くて眼鏡が必要という人には、プレゼンテーションでは縁なしの眼鏡がおすすめです。

反対に、あがり症で話すときに視線をみんなに送るなんて無理という人は、眼鏡はカムフラージュに使えます。眼鏡をかけていれば、緊張のために目が泳いでいるのも目立たないですし、顔がこわばっているのも隠せます。目が悪くない人もあがり症であれば、緊張対策にだて眼鏡をかけるとよいですね。

“目は口ほどに物を言う”という言葉もあります。お伝えしたいろいろな方法を試しながら、自分に合ったアイコンタクトの方法を見つけてくださいね。

矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。長崎大学准教授。NHKキャスター歴17年。心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し博士号取得。政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。著書にベストセラー多数。