オープンな空気で、会社にフィードバック

子連れ出勤によって会社全体の生産性が上がるかというと決してそうではない。「むしろ下がっていると思う」と西村さんは正直に答える。

取締役 COO 矢動丸和典さん

「でも中長期的に見ると会社の成長にプラスであることは確か。なぜなら、育児が理由の退職をなくせるし、優秀な人材を集めることができるから」

人材にかけられる投資に限界があるベンチャー企業にとって、この「辞めさせない」メリットは大きい。会社のビジョンや仕事のやり方をひと通り理解し、仕事として身につけてもらうまでの教育コストはばかにならない。勝手を知る社員が継続して働ける環境を整えることは、同社にとって「必要にかられてやった策でしかない」という。「幸い、会社も成長して利益も出ているから、この方法で間違っていないといえる。育児に限らず病気や介護といった、働く条件が変わる時にも対応できる方法を探っていきたい」(西村さん)

多様な働き方に寛容な組織が成り立つ条件とは何か。創業4年から参画する取締役COO、矢動丸(やどうまる)和典さんが考える答えは「オープンな空気をつくること」だ。

「育児や副業、趣味といった社外活動でどんな経験をして、それでどんなインプットがあったか。オープンに話せる雰囲気があれば、会社にとってもフィードバックを得られる機会になる」

社員一人ひとりの私生活の豊かさは「体験ギフトを企画する」という同社の事業そのものを発展させる機動力にもなる。「結局、アイデアは体験からしか生まれない。自分たちの興味の範囲を広げることは会社のためになる、という価値観の共有が大事だと思います」(矢動丸さん)

“体で験(ため)す”が体験であるという概念は、社長の西村さんが口癖のように伝えてきたことでもある。

「本来、ワークとライフは不可分なもので、大事なのは個人の興味・関心を最大化すること。そうすれば自ずと仕事のアウトプットも高まって、人生そのものも充実するはず。人生を豊かにする体験を提案する仕事をしているのだから、僕たち自身がそれを諦めたら嘘になる。やりたいことを我慢しない組織づくりに今後も挑戦していきたい」(西村さん)

成熟した個人と会社の信頼関係を前提として成り立つ今の働き方が、会社の規模が大きくなっても通用するのか。運営上の課題はもっと出てくるものと西村さんはみている。

「大企業にはまねできないサバイバル戦略として、うちのスタイルは参考になるのではないでしょうか。あえてルールは最初から決めずに、まず試してみる。YESから始めてみることで広がる可能性は大きいと実感しています」

▼「体験ギフト」とは?
パラグライダーや乗馬、陶芸やスパなど、様々な体験や食事などをプレゼントできるのが体験ギフト。テーマや価格によって商品の種類があり、受け取った人が選んで体験を申し込むことができる。
▼ソウ・エクスペリエンスの柔軟な働き方
・副業OK
週数日ずつ副業と勤務を分けたりすることも可能
・子連れ出勤OK
預け先が見つからないことが前提だが、終日一緒に勤務可能
・リモートワークOK
正社員で会議などがない場合は、どこで仕事をしてもいい
・エクスペリエンス軍資金
公私関係なく新しい体験に挑戦する費用を会社が半額負担

編集=岩辺みどり 撮影=工藤朋子