もっと頑張りたい派も、とことんやれる
子連れ社員の満足度は総じて高い半面、“バリバリ派”の独身社員のモチベーションは下がらないのだろうか。そんな疑問を払ふっ拭しょくするのがウエブディレクター兼エンジニアの20代社員、湯本英宏さんの働き方だ。
湯本さんはもともとサイトの編集を統括するディレクターという役職だったが、「自分でコードを書けるようになれば業務効率は格段に上がる」と2年前に一念発起。社長に直談判して“社内キャリアチェンジ”を達成したという。
「エンジニアを新たに採るより、自分がなるのが適任だと思いましたし、僕自身のキャリアアップのために挑戦したいという気持ちがありました。『プログラミングの学習プログラムを集中的に学ばせてほしい。半年間で一人前のエンジニアになります』と宣言して、研修期間をもらいました。当然、その期間の僕のパフォーマンスは下がるわけですが、会社は『力をつけるために時間が欲しい』という希望を柔軟に受け入れてくれた。もっと貢献していきたいという意識が強まりました」
会社の成長とともに広がる仕事の領域に合わせ、自分自身も成長したいという希望をかなえた湯本さん。長時間働くことも苦にならず、1人夜遅くまで会社に残ることもざら。一方で、人生を楽しむための時間も大切にし、16年は立て続けに2週間ずつ海外旅行のための休暇を取った。「前職の会社を辞めたのは、ブラジルW杯観戦に行くための2週間の休暇を許してもらえなかったことが直接のきっかけ。その点、今の会社では仕事でもプライベートでもやりたいことを存分にできるという実感があります」
子どもが仕事の邪魔になることはないか? という質問に対し、「むしろ集中しすぎた後のリフレッシュに活用させてもらっています(笑)」と湯本さん。子どもが大声で泣きだしたら部屋の隅に連れていく、といった暗黙のルールも機能しているのだという。「働くペースを緩めたい」という人だけではなく、「もっと頑張りたい」という人も応援する同社の環境は、一人ひとりの働く満足度を高めているようだ。
成長意欲の高い湯本さんは将来の独立も考えている。その計画を相談した時、社長からは「応援する。でも、いきなり無給で始めるのはリスクが大きいし、うちもできるだけ居てほしいから、当面は二足のわらじでやってみたら」と提案された。
同社では副業も自由。さらに、社員がプライベートで好きな体験をする時の費用を補助する「エクスペリエンス軍資金制度」も始めた。聞けば、実働7時間、12~15時はコアタイムという一応の就業規則はあるものの、それほど意識されてはいない。個人の裁量で役割をこなせば長期休暇もOK。自宅でも仕事ができるように、オンラインツールで業務ごとに進捗(しんちょく)を共有する。要は、社員が自己実現のために何かをやりたいという気持ちをできるだけ阻害せず、応援しようとする。ソウ・エクスペリエンスはそんな会社なのだ。
しかしながら、そんな組織は理想に近く、簡単に実現できるものではない。社長の西村さんはなぜ子連れ出勤や副業自由といった働き方を推進してきたのだろうか。本人の言葉によると、目指すのは「できるだけYESと言える組織」だという。
「何か相談や提案をされた時に、まず『わかった、ありがとう。まずやってみよう』から始めたい。YESと言ってもらえる期待が持てる組織をつくれば、自由な発想やアイデアが生まれやすいはず。一つ一つはちょっとしたことでも、それが積み重なると数年後には大きな差となり、会社の成長スピードに大きく影響するものだと思うんです」
一律にルールを決めるのではなく、個別に相談しながらやりやすい方法を考えていくことも大事だ。
「子どもが職場で動き回っていると、いろんなことが起こりますよ。転んでケガをしたり、Macの電源を抜かれたり(笑)。でも、何か起これば1つずつ対処していけばいいだけで、運用しながらトライ&エラーを重ねていっています」