若いあんたに何がわかるんだ!

とある横領の事案で、証拠を見つけて本人を追求したところ、事実を認めた。そのうえ私は、動機について執拗に問い詰めた。すると「若いあんたに何がわかるんだ! 社長は高級外車に乗って、平日から接待といってはゴルフに飲み会。こっちは、安い給与で子どもらの進学費用も十分にまかなえない。自分の家族のために働いているのか、社長の家族のために働いているのかわからない。それでも我慢して働いてきて、売り上げが悪いと批判される。この惨めさがわかるか。人を問い詰めて楽しいか」と反論された。

若い自分は何も言い返すことができなかった。社長としては、「ゴルフも車も自分の事業で得たものだから、非難される筋合いはない。欲しいなら自分で事業をすればいい」と考えるかもしれない。だが、人も組織もそれほど単純なものではない。組織の品質というものは、トップの器以上のものにはなり得ない。

目をつむるかわりに、確実に返済させるべし

では、社員の不正が発覚したとき、社長は何をするべきだろうか。ありがちなのは、「島田くん、すぐに刑事告訴して」というものだ。「許してなるものか。社会的責任をとことん追求してやる」と変な正義感をかざす社長すらいる。こういうときこそ、冷静になって対応を考えるべきだ。刑事告訴したばかりに、自分が疲弊してしまった社長を幾人も目にしてきた。

実際は、警察に「わが社で不正があった。調査のうえしかるべき対応をしてくれ」と話を持ち込んでも、相手にされるとは限らない。社長にとっては大変な事件であっても、警察にとっては数え切れない犯罪の一つでしかない。「もっと事実を確認して、証拠をそろえてから告訴してください」と体よく断られることもある。警察としても、限られた資源のなかで、企業の帳簿を調べて立件するのは容易なことではない。

私は、刑事事件に話を広げることをおすすめしていない。刑事事件として立件されても、会社の利益になるわけではない。社長としては、被害の回復が目的であって、社員に刑事罰を与えることが目的ではないだろう。むしろ刑事事件として話が広がると、銀行を始めとした取引先が知ることになるかもしれない。

社長としては、「不正を発見して、しかるべき処罰を求めた」という気持ちかもしれないが、周囲からすれば「ずさんな管理だった」という評価にもつながる。目をつむるかわりに、確実に返済するように話を持っていくことが、よほど合理的な判断だと私は考えている。そもそも数千万円を超えるような被害の事件でも、実際に起訴されるのは、証拠の関係で百万円以下ということもある。

では次に、損害賠償について考えてみよう。