中国でブライダル事情を展開することの難しさ

だが、中国生活が丸4年を過ぎるころ、帰国せねばと決心する。

「一時帰国すると主人の住まいが生活感ゼロ。大学生か? みたいな環境でした(笑)」

希望どおり日本に戻ったものの、新しい仕事に対して、自分の思いで立ち上げた上海の事業ほどの情熱がわかない。上司の役員とランチを取ったとき「辞めます」と口にした。すると役員は、午後のアポイントを全部キャンセルし、4時間も話を聞いてくれた。

「役員が午後の約束を全部取り消すのは大変なこと。ちょっと仕事に熱が入らないくらいで、なぜ辞めるなんて小さいことを言ってるんだろうと反省しました」

1年後、再び上海行きの辞令。成長軌道に乗らない中国版「ゼクシィ」のテコ入れだった。不振の原因は、1回目の駐在でビジネスの土台をしっかりとつくれなかったから。「ビジネススキルが足りないと痛感、マネジメントやビジネスフレームを猛勉強しました」

最終的には、ブライダル関連のネット企業に経営を委ねる道を選び、帰国する。そのときトップの責任を身にしみて感じた。

Favorite Item●大事なサインをするときはデュポンのボールペンで。今の会社に着任することが決まったときの送別の品だ。疲れたときは、ハッカ油やレモンのアロマオイルで気分転換。

「仲間と楽しく働くことも大切ですが、組織を率いる人間の役割は未来にどんな価値をつなぐかを考えること。自分がいなくなっても事業が成長する仕組みをつくれなければトップ失格です」

昨年、人材派遣やアウトソーシングを展開するリクルートスタッフィングの社長に着任。

「すべての人に役割のある社会を創るという自身のテーマのど真ん中にいると感じています。今度こそ、未来へつなぐ今を丁寧に紡いでいく覚悟です」

▼役員の素顔に迫るQ&A
Q. 好きなことば
「弟子に準備ができたとき、師が現れる」
「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」
Q. ストレス発散
料理
Q. 趣味
ヨガ
Q. 愛読書
『ソフィーの世界』(ヨースタイン・ゴルデル著)

撮影=澁谷高晴