「転勤辞令」専門家4人の本音トーク

【林】このケースで、総合職から一般職への希望は絶対出せないんでしょうか。

【丸尾】その方法もあると思うんですが、今回のケースの場合は、まずはその転勤が彼女じゃないとどうしてもだめなのかを考えたほうがいいです。配転は仕方がない時期なのか、今後の継続性、家庭生活への影響の大きさ、いまの部署に彼女の仕事がないと言い切れるのかなど、総合的な判断が求められます。

【鬼塚】会社からは、あなたのキャリアアップのためなんだよって言われる可能性もありますよね。それを蹴るのかっていうのは、どう判断すべきでしょうね。

協会代表理事・FP 鬼塚眞子さん

【丸尾】そしたら今度は夫や家族が応援してくれるかどうかという家庭の問題になりますよね。

【林】会社に相談すると同時にご主人にも相談する──、ご主人の本心も見えますね。

【鬼塚】保険会社も、女性の課長や部長に転勤辞令が出ることはあります。考えてみると男性ははるか昔から単身赴任が当然だった。それを女性はしないっていうのはある意味逆差別なので。まれですが、妻に転勤辞令が出たら、夫も同じ場所に転勤希望を申し出て受け入れてくれる会社もあります。

【丸尾】いろんな局面で自分がなにを大事にしているのかに直面する、働く女性というのは本当に人生の選択が多いですよね。

【山岸】調べたところ、昭和40年代の古い判決ですが、大阪から東京への転勤、神戸から岐阜への転勤は不当ではないという判決が出ています。一方で、組合活動を理由に転勤辞令が出たケースでは、会社側が敗訴していますね。

【丸尾】私も会社側から相談を受けることがあるのですが、もめる前に解決することのほうが多いんです。会社としても辞められたら困るし、訴えられたら会社の印象も悪くなってしまう。山岸先生がいま調べてくださった裁判例は古いですが、その後のみなさんが我慢してきたとは思えないので、裁判になる前に穏便に解決してきたのだろうと想像できます。深刻に考えすぎず、まず自分の意見を適切に述べてみることに挑戦されるのが良いように思います。

【鬼塚】以前記事に書いたのですが、従業員2人が勝訴した裁判で、精神障害を伴う妻の世話や、母親の介護を理由に、会社側が求めた「転勤か退職か」を拒むことができたという2006年の判例があります。その後、09年に育児・介護休業法が改正されているので、介護離職に追い込まれないよう、働く側も知識を増やしたいですね。

一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会
弁護士、税理士、社会保険労務士、FP、金融関係者、医師、不動産関係者、介護福祉関係者、不用品回収業者、印刷業者など、それぞれに活躍する実務経験豊富な各分野の専門家で構成。契約企業に出向き、介護・事業承継・相続問題のほか、夫婦・家族の問題などに悩む社員の個別相談にワンストップ・ワンテーブルで対応。セミナー研修などを行っている。
鬼塚眞子
一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表理事・FP。大手雑誌社勤務後、出産のために退職・専業主婦に。その後大手生命保険会社の営業職として社会復帰。業界紙記者を経て、保険ジャーナリスト、FPとして独立。認知症の両親の遠距離介護を機に、同協会を設立した。
丸尾はるな
弁護士。弁護士登録7年目で独立し、「丸尾総合法律事務所」開設。弁護士歴約10年でありながら、個人の一般民事事件、家事事件、企業の法律相談、訴訟案件など、幅広い相談に対応し、時代にあわせたサポートを行う。
山岸潤子
弁護士。仕事と子育てを両立する、弁護士歴約20年のベテラン。非常勤裁判官経験もあり、現在は東京家庭裁判所調停委員も務める。子どもの権利委員会、少年法委員会、男女共同参画推進プロジェクトチームほか、多くの弁護士会の活動にも携わる。
林 良子
税理士。一般企業の経理などをしながら税理士試験に合格。現在は内山・渡邉税理士法人の社員税理士であり、租税教育の講師も行う。得意分野は資産税(相続税・譲渡所得税)を中心とした税務コンサルティング、法人税、所得税の節税対策。

編集・構成=干川美奈子 撮影=干川 修