つぎに改行したところや、色をつけたところを声ではどう表現するのか、大きさや速さは……と具体的に書き込んでいきます。この作業を私は“話し方の楽譜を書く”と呼んでいます。楽譜には、クレッシェンドやデクレッシェンド、スタッカートなど、歌い方や演奏の仕方について印があります。話すときも同じです。ここはゆっくりとしゃべろう、ここは大きくはっきりと、とイメージを持ちましょう。
目標とする人のスピーチを「楽譜」にする
どうしても声は見えないので、粗雑に扱いがちです。しかし、今回ご紹介したような方法で一度、自分の声を意識して「見える化」すると、伝わる表現になります。これを繰り返すうちに、自分の得意なパターンがいくつかできてきます。最後のシメは大きな声で堂々と話すパターン、ゆっくりとした口調でアイコンタクトをとりながら優しくまとめるパターンなど、場面によって使い分けることができるようになるでしょう。
時間によって、10分ぐらいならこのパターン、初対面の人とならこのパターンと、話す長さや相手によって自分に合った組み合わせが見つかれば鬼に金棒ですね。
声に変化をつけたい方のトレーニングとしておススメなのは、自分が目標とする人の話し方を分析することです。“こんな風に話したい”というお手本となるスピーチやプレゼンを実際に聞いたり、映像を見たりしながら楽譜にしてみましょう。「この言葉をゆっくりめの低い声で話している」「今、声の大きさが変わった」など、声の高さや大きさ、速さの特徴をつかみ分析するのです。
一度自分の基本パターンができてしまえば、あとはそれを繰り返せばOK。毎回話し方を変えないとワンパターンになるのでは、という心配は不要です。ほとんどの場合、聞き手は毎回違います。仮に社内プレゼンなど聞き手が同じ人たちの場合でも、同じパターンが逆に安心感・安定感を与えますので、変える必要はありません。ぜひ試してみてください。
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号を取得。国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。
構成=池田純子 イラスト=米山夏子