P&Gジャパン
ダイバーシティでイノベーションを起こす

(左)人材育成に関して神戸市とP&Gは協定を結んでおり、D&Iの研修を神戸市職員向けに行った。(右)P&Gジャパン ヒューマンリソーシス マネージャー 小川琴音さん

P&Gジャパンは女性管理職(課長以上。執行役員のぞく)比率が32%と高い。内部昇進だけでこの数字である。

ダイバーシティの取り組みは、女性同士の情報交換の場をつくる第1ステージから、男性も巻き込んで個々の多様性を尊重する第2ステージを経て、今はダイバーシティをビジネスにどう生かし、イノベーションにつなげていくかという「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の段階にある。

ヒューマンリソーシスマネージャーの小川琴音さんは「インクルージョンスキルがなければ、多様性がまったく生かされないことを学んだ」という。

「多様性だけ進めても、『あの人は違うから』で終わってしまい、どのように新しいアイデアを生み出すかという議論が起こらなかったのです」

毎年3月に「D&Iウィーク」を設け、全社員を対象に「何のためにダイバーシティを推進するのか」を啓発しており、全社員が「イノベーションにつなげるため」と理解している。その成果の一例が、髭剃りの「ジレット」のトライアルプランの全面見直しだ。

従来、髭剃りを初めて使うのは「新入社員から」という考えがあった。日本のジレットのブランドマネージャーに女性の外国人社員が就き、「本当なの?」と疑問を呈したことから調査をやり直すと、「大学生になったときから」という結果に。サンプリング対象の変更など、マーケティング戦略がガラリと変わった。

「女性は髭剃りを使わないでしょとか、外国人に日本人のことがわかりますかなどと言わずに、相手の意見を尊重し、掘り下げて聞く技術がインクルージョンスキルです」(小川さん)

女性が管理職になるためには男性と同じ評価基準が用いられる。だからといって育児などの負担をそのままにするわけではない。個人の事情に合わせ柔軟に制度を運用している。とくにユニークなのが「コンバインド・ワーク」だ。オフィスと自宅の労働時間を合算してフルタイム勤務とみなすところが新しい。小川さん自身も育休から復帰するときにこの制度を使った。

社会全体でダイバーシティが進めば将来的には自社のプラスになると考え、16年3月からインクルージョン・スキル研修プログラムの無償提供も始めた。社内でトレーニングを受けた執行役員や部長級のトレーナーが出向いて、D&Iの要点や、管理職と部下のコミュニケーションについて講義とワークショップのプログラムを展開している。

▼P&Gの取り組み

「多様性は生まれたけれど活かし方がわからない会社」から……
・成果が出る働き方を自分自身で考える
・多様性がイノベーションにつながることを理解
・制度は少ないが、柔軟性が高く、例外OKに

<こんなこともやってます!>

●コンバインド・ワーク
「時短勤務」の進化系。会社と自宅を合わせた労働時間が一日の就労時間を満たせば、フルタイム勤務とみなされる制度。特定の時間に在宅の必要がある社員が利用。

●ロケーション・フリー・デー
「在宅勤務」の進化系。勤務する場所を自宅以外でも柔軟に選べる。育児や介護など特別な理由がなくても、月5日まで取得可能。仕事に集中したいときなどにも活用可能。

●ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト
ダイバーシティ推進に欠かせない個人のスキルを醸成する、管理職向けダイバーシティ研修を、社外に無償提供。同社の社員や執行役員がトレーナーとなる。