後輩のロールモデルとして自然体でありたい

(左上から時計回りに)いつでも出られるよう起床後すぐに身支度、朝食まではブリッジへ/港に停泊しているときは、少し気を休めることができる/必要に応じて外に出て目視で確認することも多い。乗艦中は気が抜けない/緊急事態に備えて熟睡はできない。直通電話もすぐに対応

女性1期生が防衛大学校を卒業して20年が経ち、護衛艦の乗員の中にも女性自衛官の姿が当然のように見られるようになってきた。

そんななか、大谷さんは子育てをしながら任務に当たる葛藤を抱きつつ、同時に職場では「後輩の手本にならなければいけない」「気負いすぎてはいけない」という相反する思いを常に抱えてきたと話す。

「艦の一般公開が行われるようなとき、『私も将来、海上自衛隊に入って艦長をやってみたい』と話す若い女性に会うことがあります。『ああ、自分も少しは彼女たちの目標になっているのかな?』とうれしくなる。それにこれまでの『女性初』のポジションには、後輩が続いて就いてもきた。だからこそ、きちんと役割を全うしなければダメだという思いが強いんです」

一方で艦長に着任して以来、そうした気負いが隊員たちをいたずらに緊張させないよう、同時に心を配る必要もあった。

「初めて女性として上に立つ立場になると、どうしても肩に力が入ったり、背伸びをしたりしてしまうものです。でも、その気負いが周囲に伝わりすぎてもいけない。そこが難しいところですが、結局は自然体が一番だと思っています」

艦内でともに任務に当たる隊員は、ときに家族以上に長い時間を過ごす仲間だ。「遠く離れた家族と支え合い、同じ釜の飯を食う同僚を大切にする」――そのうえで全責任を負う艦長の任務は、「やはり特別な配置」だと彼女は感じている。

「艦長職は厳しい仕事ですが、経験した人たちはそろって『また艦長に戻りたい』と言います。大変な仕事ではありますが、それだけにやりがいがある。今後、同じように艦長を目指す女性自衛官が増えてくるとうれしいです」

▼大谷さんの24時間に密着!

5:00~5:30 起床・身支度
5:30~6:00 ブリッジから監視
6:00~6:30 朝食
6:30~12:00 ブリッジから監視、航行諸訓練
12:00~12:30 昼食
12:30~17:00 艦内確認、ブリッジから監視、航行諸訓練
17:00~18:00 夕食
18:00~23:00 ブリッジから監視、航行諸訓練
23:00~5:00 就寝

撮影=市来朋久