いろんな見方があると決して答えを押しつけない母

子育てと仕事を両立するため母から学んだのは、自分ですべて背負わないこと。子育ては母親一人でするものではなく、周りの人に助けを求めることも大事です。私もいろんな大人に育てられたことで多様な価値観に触れることができたのはよかったと思います。

(上)母は子どもたちに「人生に必要だと思うものを詰めて」とスーツケースを1つずつ与え、3週間後に羽田空港で待ち合わせ。『マザー・グースと三匹の子豚たち』のアメリカ暮らしがスタート。(下)カナダで50代からの晴耕雨読生活を楽しんだ洋子さん。

さらに母が偉いなと感じるのは、子どもを自分の付属品にせず、一個人として尊重してくれたこと。親の価値観を押しつけたり、レールを敷くようなこともしないから、私たちはあまりに自由すぎて時々とまどうこともあったけれど、母は絶対に助けない。世の中にはいろんな見方があることを伝えたうえで、「答えは自分で見つけなさい」と。それでもこちらが倒れそうになると後ろで支えてくれる存在でした。

今、私が手がける仕事も、母と世界中を旅するなかで見いだしたものです。旅先で出合う文化や民族に興味が湧き、日常で使われる雑貨にひかれたことが、お店を始めるきっかけになりました。

母はよく人生80年として、それを時計に置き換えて話します。例えば夜中の0時に生まれたら、50歳はちょうど15時のおやつの時間。だから私のテーマは、それまで子育てや仕事に追われていた50代の女性たちにお茶を飲んでほっとひと息つく時間を過ごしてもらうこと。大人の女性が心地よくくつろげるような生活のヒントを提案したいのです。

私も自分の仕事や趣味をさらに楽しみたいし、80歳になった母にはワクワクするような夜の時間を満喫してほしい。今、母は食後のブランデーを堪能している頃でしょうね。

桐島かれん(きりしまかれん)
1964年、作家・桐島洋子さんの長女として神奈川県に生まれる。86年、モデルとしてデビュー。以後、歌手、女優としても活躍。93年、写真家の上田義彦氏と結婚、4児の母。自身で起ち上げたブランド「House of Lotus」クリエイティブディレクター。

歌代幸子=構成 道用浩一=撮影