このパーソナルスペースは、近いほうがよい、遠いほうがよい、ということは全くありません。身長差をはじめ、住んでいる環境やオフィスの広さ、家族との距離感など、それぞれの環境の違いがあらわれます。ですから国籍や文化、男女によっても違います。大事なことは、パーソナルスペースは相手によって違うということを知ること。いやがっているサインが出ていないかどうかを読み取ること。
女性リーダーの場合、周りはすべて男性で女性はあなた一人だけという場面もあることでしょう。あなた自身が周りの男性にあまり近寄られたくないなら、手を前に組む、ノートを抱える、その他、棒タイやリボン、ネームプレートなどを胸の前に垂らすことも防御になります。“矛”と“盾”で自分を守りましょう。逆にあなたが近寄ったときに部下が手を前で組んでいたり、笑っていたりしたら、相手のパーソナルスペースに入りすぎているということです。
セミナーではもう一つ実験を行いました。参加者の方に、テーブルに置いてあるものはすべて端によけ、正面に座っている方と自分の間には何もない状態にしていただきました。ほとんどの方が手をテーブルの下に置いて、居心地悪そうに笑っています。そこで、まず飲み物を前に置いてもらいました。少し場が和みました。さらにテーブルにノートを広げます。みなさん、正面の人をふつうに見られるようになりました。「全然、大丈夫!」という声も聞こえます。これが矛と盾なのです。ビジネスにおける人との接し方では矛と盾を上手く使いましょう。
管理職会議で居心地が悪いというようなときには、飲み物を前、手元には資料を広げることをおすすめします。その際、手をテーブルの下に置くと“こけし”になってしまいます。こけしは自信のない人がする姿勢。堂々と見せるにはキャスターやコメンテーターのように、腕はテーブルにのせて、肘をはりましょう。そうすれば、冒頭の悩みにあがった「男性の意見は通りやすい」「女性だから助け舟を出される」ということはなくなるでしょう。女性リーダーとしてのふるまい方では、このように自分を堂々と見せる身体表現がポイントとなります。
強調したいのは、女性らしさやマナーと、ヒトとしての快適なコミュニケーションは違う、ということです。非言語表現という視点から見ると、女性らしさやマナーは、どうしても自信のない人に見えてしまいます。もちろんふだんは女性らしくしてOK。しかし、何かをアピールするときにマナーは不要です。自分の要求を通したい会議やプレゼンの場ではマナーを忘れましょう。よかれと思った女性らしいマナーが、時にビジネスではマイナスに働いてしまうこともあるのです。
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号を取得。現在、国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。全国から研修・講演依頼があとをたたない。著書に『「きちんとしている」と言われる「話し方」の教科書』(プレジデント社)などがある。http://www.authenty.co.jp/
池田純子=構成 米山夏子=イラスト 岡村隆広=撮影