豊かな環境で育てながら働くという選択肢

【中野】子育て環境を考えても、新しい働き方が非常に求められていると感じます。「保育園落ちた、日本死ね」のブログで話題になった待機児童問題ですが、私も2人の子どもの同時保活で非常に苦労しました。保育園を見学していると、やはり量を拡大するうえで、保育の質が犠牲になっている部分がどうしてもあると感じます。ビル内保育で保育士さんたちが横断歩道を渡らせて散歩に行かせるのは大変で、子どもも好きなペースで外でのびのびと遊べない。熊本の震災がありましたけど、いま、1時間近い通勤時間をかけている親も多い中、平日の昼間に地震があったらと考えると、本当は職住近接のほうがいい。10年、20年先を考えたときに、東京一極集中が是正され、さまざまな地域からリモートで仕事を進められて、豊かな環境で子育てができるという世界が理想かと思います。

【秋好】いまの話で出たあるべき姿が、すでにランサーズの中で起こっているんですよね。ランサーズのクライアント企業の6割は東京ですが、ランサーさんの8割が地方に住んでいます。弊社自体も、ユーザーからの問い合わせに答えるチームの半分は会ったことのないランサーさんです。日本全国と海外にもいて、24時間サポートが実現できる。そういうことが、やろうと思えばできる。

【中野】2016年2月に、チェンジウェーブ企画の「MICHIKARA」というプログラムの取材で長野県塩尻市に行ってきました。リクルート、ソフトバンクのリーダー育成を兼ねたプログラムで、企業の若手と塩尻市職員が一緒になって市に対して提言をするものです。その中で私も子育て中の女性の話を聞いたのですが、手は空いてるけれどブランクがあって自信がない、なんとなく不安で仕事に踏み出せない、と。じゃあ、働いている人は何がきっかけで一歩を踏み出せたかというと、地域のおせっかいな先輩が半強制的に「ハチミツの詰め物あるから手伝って」と誘ってくれたことだったりする。それでMICHIKARAのチームはさまざまな単発の切り出しの仕事と、復職したい女性をマッチングする事業の提案をし、いま実際に動きだしているようです。大事なのは、最初の一歩をどうつくるかなのかなと感じました。

【秋好】いきなり外に出て働くとか、ちょっとパートに出るというのはハードルが高い場合でも、若い世代であれば、スマホやインターネットを使って「働く」の半歩手前から始めるというケースは増えていると思います。ランサーズには「1件100円、1分で終わります」といった内職的な仕事から、だんだんとプロジェクトにつなげていく方もいます。仕事を、0か1かではなくて、0.1ぐらいから始めるという選択肢を増やせたらと思います。

【中野】育休明けのママたちにとっても0か100かではなく、段階的な復帰というのは非常に大事だと思います。いま地方にいる人に加えて、これからもっと、そういった働き方自体が移住のきっかけになるといいですよね。子育てにやさしいことを売りに移住者を増やそうとする自治体を取材しても、やはり仕事がないと広がりは限定的にならざるをえない。結局、夫は近くの地方都市勤務で遠距離通勤や別居の週末婚をしていて、妻は専業主婦として子どもと住んでいるという形だと、女性の就労にもつながらない。

【秋好】そうですね。ランサーズも地方の利用者が8割なのに、地方に行くと知名度は全然ないんです。いま、複数企業で社団法人をつくって、地方の首長に向けて提案する取り組みをしています。地域で箱もので地方創生というのはもう厳しいので、ITの力であまりお金をかけずに地方創生に貢献できればと。2015年、奄美市と「フリーランスが最も働きやすい島化計画」という取り組みを開始しました。本当は地元に帰りたい人、東京出身で田舎がない人という2タイプがいて、こういう人たちの移住を進めるため、ほかの自治体にも広げようとしています。