トップブランドのCEOとして「思いがけないことに直面しても対応できる、しなやかな組織づくり」や、「それを構成しうる部下の育成」は、終わりのないテーマであり、努力目標だ。

「当然のことですが、組織を形成する最小単位は、個々人に内在する特性、つまり道徳性であり本性です。それがこの本のなかでは、非常にシンプルかつ明快に、実例とともに解き明かされています」

「読み出したら止まらず、あっという間に読み終わりました」と得能さん。

読後、夫婦間でこの本に対する感想を活発に語り合うことがしばしばあったそうで、それぞれが異なる角度から道徳性の起源、人間の在り方について考えを巡らせるきっかけになったという。一冊の本を題材に活発なコミュニケーションがはかられる夫婦関係は、いかにも円満でほほ笑ましい。

「夫の実家はお寺なので、こうしたテーマについては、互いに印象深いポイント、考えさせられることが異なっているんです。宗教観を押し付けられるようなことはありませんが、夫はやはり私にはない視点で道徳性についてそしゃくしているので、話していて興味深かったですね」

多忙を極める日々において、読書時間の捻出には苦労している。しかし、「アウトプットばかりの日々ではいけない」と、移動時間などを活用しながら、知的好奇心を満たす日々。近年、かつての子ども部屋を模様替えして自身の書斎にしたのも、インプットが不足しがちな毎日に危機感を覚えたからだという。そんな得能さんには、最近になって自らに課したこだわりがある。

「本は必ず机に座って読もうと決めているんです。1日1時間だけでもいいから、寝転がったりして本を開くのではなく、きちんと座って読む。やはり、幅広い教養の源となるような読書をしようと思ったら、しっかりと系統立てて読む必要があります。その意味で、机に向かうというのは、読んだ本を記録し、次にどのような本を読むかを検討するのにも便利なんですよ」

もっとも、今回挙げた『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』については、主にキッチンでページを繰ったという。伴侶と語らいながら読むのが楽しい一冊であったことがその理由だが、読み始めてからはどのようなかたちであれ、“没頭”に至るまでの過程が大切、ということだ。