「世の中の役に立ちたい」強い思いが芽生えた理由
2016年現在、日本法人で働く彼女の仕事は、発電所で使われるガスタービンの技術アドバイザーだ。顧客は主に電力会社である。
それまではヒューストンにあるGEのオフィスで働いていた彼女が、4~5年の予定で日本に赴任したのは2015年5月のことだった。
日本の発電施設の多くは機器の更新期を迎えており、さらに東日本大震災や電力自由化も相まって、日本語を話せる即戦力のエンジニアが求められていた。そこで日本への駐在を打診されたのが、リーダーシップ研修を終えたばかりのオオヌキさんだった。
「でも、日本から連絡をもらったとき、私の最初の答えは『ノー』でした」
彼女は振り返る。
「同じ時期に結婚したアメリカ人の夫が当時、大学病院の研究員をしていたんです。ちょうど大切な試験が近づいている頃だったので、いまは彼の人生を優先させるべきだと思って――」
ところが、その話を夫のエリックさんにすると、彼は思わぬ反応を見せた。
「どうして断ったの?」
続けてかけられた言葉が、彼女の背中を押した。
「それは君のチャンスじゃないか。GEのような伝統ある会社から必要とされて、しかも自分の母国のために働けるなんて、人生の中で何度もあることじゃない。若いうちはチャンスを迷わずにつかむべきだ」
こう諭されて思い出したのは、2011年の東日本大震災のことだったという。当時、南カリフォルニア大学の学生だった彼女は、多くの日本人留学生がそうだったように、日本での災害に立ちつくすしかない自分の無力さを痛感した。ニュースメディアがこぞって震災の経過を伝え続けるなか、両親とも連絡が取れないまま不安な日々を過ごした。電力関係の仕事に就こうと考えたのも、電気のない被災地の過酷な状況をニュースで見たからだった。
「日本には自分の家族や友人もいるのに、見ていることしかできない。あのときの何とも言えない気持ちは、仕事を通して世の中の役に立ちたいという思いにつながり、自分のキャリアにも少なからぬ影響を与えています」