「おもてなし」に酔いしれてはいけない

今はやりの「おもてなし」もくせ者です。これは「サービス過多」と紙一重です。個人のレベルで心がけるのはいいのですが、会社や国がこれを言い出すと、無償のサービス提供を強要することになってしまいます。サービスを受ける側はうれしいかもしれませんが、供給側は苦しくなるばかり。結局、サービス残業の源となってしまいます。

イラスト=北澤平祐

私たちは、「日本人は働くのが好き」という「集団催眠」にかかっているように思えます。そして日本人は睡眠時間、つまりは命を削りながら、過剰なサービスを維持しようとしています。それによって誰が得をして誰が損をするのかを考えれば、おかしいことに気づくはずなのですが、皆で催眠にかかっているんですね。

これから少子高齢化が進むことを考えると、仕事の時間を減らし、それと引き換えに、受けているサービスの質も下がることを受け入れなければ、立ち行かなくなります。にもかかわらず、逆の方向に進んでいることに不安を感じますね。トップに立つ人は特に、「ボトムアップ」とか「コンセンサス」「チームワーク」「おもてなし」といった美しい言葉に、酔いしれないでもらいたいものです。

明治大学教授 鈴木賢志
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。

構成=大井明子 撮影=向井 渉 イラスト=北澤平祐