日本の働く女性から睡眠時間を奪っている家事負担。世界的に見ると、日本の男性の家事時間はワースト2という結果も出ている。なぜ「妻の家事負担」は減らないのか? 明治大学の鈴木賢志教授に聞きました――。

男性の家事時間は世界でワースト2

日本の働く女性から睡眠時間を奪っている家事負担の偏りは、データにもはっきり出ています。1日の家事時間は62分と、日本の男性は韓国に次ぐワースト2。

グラフを拡大
【仕事時間は世界でトップ!】グラフは、15~64歳男女の平日・休日を含めた1日の生活時間。デンマークやノルウェーでは男性も仕事時間と同等の時間を家事に費やしているが、日本人男性は6分の1だけ。(出所:OECD「Balancing paid work,unpaid work and leisure」(2014年発表)をもとに編集部作成)

その理由の一つには、「(たとえ働いていても)家事は女性がすべき」とする男性の意識の問題がありますが、もう一つには、男性が家事をしたくてもできない、長時間労働を強いる日本の企業体質もあるように思います。グラフのように、家事時間が少ない一方、仕事時間は世界一を誇っているのです。

しかも、日本の男性は通勤時間も長いことがわかっています。通勤時間の男女差が激しく、男性が遠くまで通って働くのに対し、女性は近場で働いています。似た傾向があるのは韓国やトルコなど、男性優位の国です。

男性の長時間労働を支える女性たち

女性の意識の問題もあるでしょう。

「仕事も家事も完璧にこなす女性が格好いい」と思っていませんか? ヨーロッパの女性と比べ、日本の女性は肩肘張っている感じがします。そして結局のところ、男性の長時間労働を支えてしまっているのではないでしょうか。

育児に費やす時間を見ても、日本の男性は他国に比べてかなり少なく、某子ども番組のタイトルに象徴されるように「子どもは母が見るべき」という暗黙の了解があります。育児休暇を取得する男性もほんのわずかです。

私はスウェーデンにいたときに子どもができたのですが、育休を取るようにという職場のプレッシャーが強く、「おまえは日本人だから取らないのか」と、まるで鬼扱いです。仕方なく3カ月取りました(笑)。日本ではPTAや保護者会は女性ばかりで男性は肩身が狭いですし、夫を参加させた妻も、罪悪感があるようです。そうした性別役割分業意識は減らしていかなければなりません。企業も、女性を対象にワーク・ライフ・バランス支援をしている段階では、まだまだだと思いますね。

なぜ、日本の1人あたりの労働生産性は低いのか

日本人の生産性の低さも顕著です。もっと生産性を上げれば、短い時間で高いアウトプットが出せるようになります。男性も女性も、早く家に帰ることができたり、自分の生活スタイルに合った働き方ができるようになるはずです。

グラフを拡大
【国際的に見て低い日本の労働生産性】グラフは購買力平価を就労人口で割ったもの。1人あたりの労働生産性を表す。日本はOECD加盟34カ国中で22位。頑張って長時間働いているわりに、それが成果につながっていないことがわかる。(出所:日本生産性本部「日本の生産性の動向」(2014))

日本人の生産性が低い理由は、「チームワーク」「コンセンサス(全員の合意)」「おもてなし」の3つにあると私は考えています。これらの言葉の美しさにごまかされて、その背景にある問題の深刻さに、誰も目を向けなくなっています。

チームワークやコンセンサスは、「全員がその場にいないといけない」という縛りになります。これは、単なるマネジメントの怠慢。リーダーシップが欠如し、責任の所在があいまいなため、誰も責任を持って何かを決断することができません。

「私が決める。だから自分が責任をとる」。上の人にそんな覚悟がないんです。このため、長時間の会議で全員の顔色を見ながら、コンセンサスでものごとを決めることになってしまいます。若い頃に「ボトムアップ」で意見を上げてもらえてうれしかった体験もあり、部下に対してもそうするのでしょうが、男性ばかりで長々と会議をしていても良かった当時とは、時代が変わっていることに気づくべきです。

そのくせ家庭では、「家事や子育ては女性の役割」と、女性の責任範囲ばかりが明確です。本来は逆で、職場では責任の所在を明確にし、家庭ではチームワークを大事にして家事を分担すべきなのです。

「おもてなし」に酔いしれてはいけない

今はやりの「おもてなし」もくせ者です。これは「サービス過多」と紙一重です。個人のレベルで心がけるのはいいのですが、会社や国がこれを言い出すと、無償のサービス提供を強要することになってしまいます。サービスを受ける側はうれしいかもしれませんが、供給側は苦しくなるばかり。結局、サービス残業の源となってしまいます。

イラスト=北澤平祐

私たちは、「日本人は働くのが好き」という「集団催眠」にかかっているように思えます。そして日本人は睡眠時間、つまりは命を削りながら、過剰なサービスを維持しようとしています。それによって誰が得をして誰が損をするのかを考えれば、おかしいことに気づくはずなのですが、皆で催眠にかかっているんですね。

これから少子高齢化が進むことを考えると、仕事の時間を減らし、それと引き換えに、受けているサービスの質も下がることを受け入れなければ、立ち行かなくなります。にもかかわらず、逆の方向に進んでいることに不安を感じますね。トップに立つ人は特に、「ボトムアップ」とか「コンセンサス」「チームワーク」「おもてなし」といった美しい言葉に、酔いしれないでもらいたいものです。

明治大学教授 鈴木賢志
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。